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「月彦。さては気付いてたでしょ」
素早く『ナスカの絵描き』で索敵を行ったらしいリゼから向けられるジト目。
肯定代わりに人差し指を立てると、指先を噛まれた。
何しやがる。女隷ごととか、お前以外なら当面は流動食生活だぞ。
「ショーコ。仕留められそう?」
逆さに浮いたヒルダの問いに対し、四度の発砲で応じる五十鈴。
が。舌打ち混じりの厳しい表情を検めれば、結果は聞くに及ばない。
「弾かれたばい」
五十鈴の火力は銃ありき。更に突っ込めば、弾丸ありき。
形状、口径、密度、炸薬量。
中でも取り分け、素材の占めるウエイトは大きい。九割方と称していい。
弾の問題だけならヒルダに『アリィス・トラオム』で創らせる、或いはリゼの空間歪曲を纏わせるなどの手段もあるにはある。
しかし、そうなると今度は別の、他人のスキルの影響を色濃く受けた物質には『
延いては『リロードツール』も発動後、三時間から六時間で精製物が砂へと変わってしまうために作り置きは適わず、かと言って既製品では著しく威力が落ちる上、十全な数を揃えるのも難しい。
まさしく以て、彼方を立てれば此方が立たず。其方を立てれば何方も立たず。
一応、非常用に深層のドロップ品を幾つか圧縮鞄に備えている筈だが、取り出す素振りを見せないあたり、それでも不足と判断したのだろう。
となれば。
「俺を使うか?」
「ぴにっ」
右腕に手刀を添える。
切断の後、アラクネの粘糸を引き剥がし、新たな腕を生やせばいい。易い話だ。
──けれども。実行に移すより先、ゲスト共が動き始めた。
行儀の悪い奴等め。さては変身中のヒーローに攻撃するタイプだな。不粋極まる。
「ン」
丸太並にデカい槍が飛んで来た。
穂先を掴み、そのまま握り潰す。
「リゼ」
「りょ」
軽快な所作で振るわれる
七つの太刀筋が、ステージで歌うシンギュラ達へと向かう飛び道具を斬り落とす。
「じゃあ僕も」
そう言ってヒルダが手を叩いた直後、周辺で巻き起こる無音の破壊。
不可視化と消音を施した八挺のレールガンによる斉射。あちこちで立ち上る火の手。
最早、殆どテロリズム。コトが片付いたら通報しとこう。
「もっとスマートにやれよ」
住民避難まだ済んでねぇんだぞ。
ま、こんな状況で一体どこに逃げるんだって話だが。
「ったく」
正面へと掌を翳す。
向かう先には、寄せ集まるように立ち並ぶ摩天楼。
「『破界』」
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