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織り重なった歌声と共に、波動が優しく肌身を撫ぜる。
途端、体内を駆け巡る活性。
食後に似た充足と充実が、腑の奥底より込み上げる。
こいつは。
「『
「……前に一度、聴いてるわよ」
大鎖鎌の長柄で肩を叩きながら、微妙に険しげな顔つきでリゼが告げる。
そーだっけか、と穴だらけの記憶を掘り返すも、心当たりは無い。
「お」
そんな思案の傍ら。夥しい速度で世界を塗り潰し続けていた侵食が、がりがりと歯車の軋むような不協和音を立て、緩んだ。
十が五に、五が一に……やがて完全に拮抗し、押し留まる。
「ハハッハァ」
やるな。本当に、たった五機でカタストロフを食い止めやがった。
拍手喝采。ノーベル平和賞ノミネート待った無しだな。
「さァ、て」
奥歯の奇剣を噛み締め、女隷を纏う。
数えるのも億劫なほど破壊と再生を積み上げたことで、仕立てさせた当初より遥かに増したフィット感。
裏地は主に悪皿の髪を使っているため、リゼ曰くの猟奇的なデザインに反し、着心地や肌触りも極めて良好な逸品。
尚、叶うなら八尺様も素材に使いたかったが、生憎とボスはドロップ品を落とさない。
あの長い指の骨、飾りに誂え向きなのだけれどな。
「野郎ども。タイムリミットは逐次把握しとけよ」
「私達の中で野郎はアンタだけよ」
半ば恒例のジョークをリゼと交わしつつ、デジタル数字を網膜投影。
たった九十分で全て終わらせろとは、中々に無茶を申されなさる。
燃えるね。
「……時間も無いし、さっさと行きましょうか」
腰だめに臨月呪母を構えるリゼ。
しかし呪詛を注ぎ始めるよりも先、静止の声が掛かる。
「暫時」
待ったを唱えたのは、五十鈴。
軽い跳躍。自分の何倍も背が高いフェンス上に着地。
右目に宛てがった黒百合の眼帯を外し、その奥に収められた金色の瞳で、ぐるりと周囲を見渡す。
「くくっ」
まあ、そうだろうな。
各々の知覚能力から鑑みて、真っ先に勘付くのは、お前だと思ってた。
「三里四方に、概ね百」
宙返りで再び俺達の側に降り立ち、間髪容れずリボルバーを抜く五十鈴。
「『リロードツール』」
足元のコンクリを素材に、一発だけ拵えられた弾が挿入される。
そのまま、ほぼノーモーションのファニングショット。
弾道の先には──超音速で此方に飛来する投擲物。
なんてこと無い、どこにでも転がってるような小石。
撃ち抜かれ爆散し、欠片が風に流れて行く。
挨拶のつもりか。
礼儀正しい輩も居たものだな。月彦さん感心。
「囲まれとる」
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