725・u-a
ステージに撃ち込まれた弾丸が、私の足元で発光と振動を始める。
同時。世界中へと散った全ての欠片も、それに呼応した。
──
音と光を介し、スキル効果を伝播させる物質。
極めて特殊な環境下でのみ、精製が能う合金。
地球上では自然発生し得ない諸々を人工的に再現出来るようになるのは、二十二世紀に入って以降。
加え、本来なら広大な土地と年単位の時間が必要で、実行は至難。
シキ組の擁するスキル、延いては奇剣工・果心の独自技術。
何かが欠けていれば成し遂げられなかった、所謂ひとつの奇跡のカタチ。
フェリパが残した、尊き遺産の一。
「決して無駄には終わらせない」
再びの生を瞬いた彼女が消え去る時、二つ贈り物を受け取った。
ひとつは『スクルドの眼差し』の再調整。
百年の彼方を隅々まで見通したオリジナルには程遠くも、より色鮮やかな未来視。
もうひとつは──『
「6TH、Lza、Λ、庵。声帯設定を十三番に」
私達の喉は、携帯電話などの通信機器越しに呪毒を撒く都市伝説系クリーチャー、女怪ボイスのドロップ品を主材に作られている。
その成り立ちを利用したシンクロナイズ。妹達には『
そうしなければ、この曲は歌えない。
「コネクト」
精神を昂らせ、肉体的な能力も高める『戦いの歌』。
歌唱者が味方と捉えた者達の傷と病を癒す『天界のエチュード』。
逆に、敵と断じた相手の活動を阻害する『地獄のソナタ』。
メロディを媒介に周囲へと多様な干渉を齎す、三種の魔曲。
──そして、更に。私は識っている。
フェリパが未来から持ち出した、第四の楽譜。
名を『
肉声の届く範囲内をエネルギーで満たし、望む相手に活力を与える聖歌。
かの超過種、絶凍竜妃フォーマルハウトの弱体化をもワンフレーズで完全回復させたと言えば、チカラの多寡は想像し易いだろう。
「La、La、La、Laaaaaaaa──」
カウントを開始。
計算上のリミットは、九十分ジャスト。
決着を待たず刻限が過ぎてしまえば、世界は終わる。
あの女。原初の怪物に、喰い尽くされる。
…………。
例え破局を免れようとも、それは。
「月彦様」
「ン?」
灰色の瞳と視線を重ねる。
次いで口を開きかけ、しかし言葉が纏まらず、暫し間を挟んだ後、かぶりを振った。
「いえ。なんでもありません」
「そうか」
あっさり退く彼に、少しは関心を見せてくれてもいいのに、と内心で思う。
だけど。気負いは抜けた。
「────」
マイクのスイッチを入れる。
打ち付けるように、一歩踏み出す。
そうして、私は、私達は。
声の限り、歌を奏でた。
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