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 巨大な水晶の柱に似た、緩く脈打つ物質。

 左手のリボルバーを頭上へと投げた五十鈴が、透き通った表面に指先で触れる。


「『リロードツール』」


 発動させたのは、銃弾生成のスキル。


 シキ組総勢の異能を駆使し、延いては不世出の技術者たる果心の力を借り、多種多様なドロップ品を複雑に織り重ねた、半生命体の合金。


 それを製した弾丸。

 マップ上の光点と同じ数、五十鈴の足元に並ぶ。


「スリーカード」


 続け様、手中に加わる三丁目クラブ

 ガンプレイと入り混じっての流麗なジャグリング。

 銀のバレルが陽光を照り返し、青薔薇の彫刻エングレーブを際立たせるように煌めく。


「フォー・オブ・ア・カインド」


 更に。腰まで届く深いスリットから伸びた右脚を振り上げ、躍り出る四丁目スペード


「四つ使うのか?」


 五十鈴の銃技は、得物の頭数と比例する形で加速度的にキレを増す。

 しかし、そもの彼女にとって、地球での狙撃など銃口を的に押し付けて引鉄を絞るに等しい行為。


 三丁。いや、二丁もあれば十分だろうに。


「こっちの方が格好良か」

「成程」


 そいつは至極ご尤も。完璧な理論武装。

 野暮だったわ。申し訳無い。


 あと、何故ヒルダは地べたに這い蹲ってんだ。


「や、パンツ見えそうだなぁと」


 馬鹿なのか。馬鹿だったな。


「……見えるワケなかろ」


 そんなヒルダを尻目、呆れた語調で零す五十鈴。


 次いで。振り上げた脚を、幾らか溜めて叩き下ろす。


「はいとらん」


 万の弾群が、宙に跳ね上がった。


「『加速アクセル』」


 あらゆる速度を嵩増しさせてのスイングアウト。

 空のチャンバーで弾丸を掬い取り、発砲。


「『加速アクセル』『加速アクセル』『加速アクセル』『加速アクセル』『加速アクセル』」


 開幕と同時、六乗まで連なる強化。

 ほぼ振り回しながら全方位目掛けて二十四発を撃ち尽くし、排莢、再装填。


「──日本国内」


 機関銃の比ではない連射速度。


「アジア、オセアニア」


 舞い踊り、飛び跳ねながらの、しかし寸分の狂いすら存在しない精密射撃。


「ヨーロッパ、アフリカ」


 かと思えば、銃を蹴り付けて強引に撃鉄を倒す、暴発紛いの荒っぽい手管。


「北アメリカ、南アメリカ、北極、南極」


 コンクリートの地面に降り注ぐのは、棄てられた空薬莢のみ。


「『加速アクセル』」


 十秒足らずで二千発を超えた頃合、更にスピードが増す。

 七乗。俺の動体視力を以てしても『豪血』を深化させねば振り切られる領域。


「北大西洋、南大西洋、北太平洋、南太平洋、インド洋、北氷洋、南氷洋──」


 絶え間無い銃声が鳴り止んだのは、二十秒を跨ぐか否かのタイミング。


 クラブ、ダイヤ、ハートの順でリボルバーを収める五十鈴。

 残ったスペードが、ゆっくり差し出した彼女の手に、すとんと落ちる。


「角笛、鳴り渡らん。終末の鐘、千切れる鎖、貫きしは金の太陽」


 相変わらず翻訳困難な五十鈴節を添えた、ラストワン。

 佇むu-aの脇を抜け、その背後に着弾。


 音響機器が据え置かれた、ライブステージの中心。


「終わったばい」

「感謝を」


 恭しく低頭。然る後、舞台上へ進むu-a。

 シンギュラの妹達も、粛々と続く。


「久し振りですね。私がセンターに立つのは」


 細長い指を、上背の割に小さな顔の前で、甲高く鳴らした。


「共振弾、アクティブ」





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