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「あァ?」
銅鑼声の咆哮と共に、薄汚い棍棒が肩口へと叩き下ろされる。
「ジャレてんじゃねぇよ」
打ち込んだ反動で手首が砕け、樹鉄の混ざった身体へ触れたため真っ二つに断ち斬れた得物を取り落とし、蹲るゴブリン。
軽く払い除ける程度に蹴り飛ばしたところ、上半身が水風船さながら、弾け飛んだ。
「脆いな。カルシウムとタンパク質が足りてないぜ、不摂生め」
「そういう次元の問題、だいぶすっ飛ばしてると思うけど」
何を仰る。栄養管理は理想的な肉体を得る枢要だぞ。
どこぞの偏食女の肌艶を保つべく、俺が日頃どれだけ気を遣っていると。
まあ、そんな四方山話は置いといて。
「豪血」
四半秒、動脈に赤光を灯し、完全索敵領域の範囲を直径百キロ前後まで拡張。
見聞覚知へと染み渡る、膨大かつ詳細な情報群。
捻れ、歪み、異界に侵された、其処彼処の空間。
紛れも無いカタストロフの様相。
しかし、ほんの少し前に起きたステージⅢとは、あまりに似て非なる。
より深刻な規模。
より悪辣な侵食。
より致命的な傷口。
「ぅるるるるるるる」
識覚が届く限り、湧き出すクリーチャーは未だ一桁台階層の木っ端に留まっているものの、あと数分と待たず更に強大な輩が大挙して押し寄せるだろう。
仮に深層クラスが一体でも現れれば、警察や自衛隊の戦力では時間稼ぎにもならない。
尚、
デカいエネルギーを塗り潰すには、相応の手間を要するらしい。
ともあれ。
「これがジャッカルの言ってたステージⅤか」
ステージⅣで地球の一部をゲート内に呑み込み、そいつを呼び水とし、全世界に鏤む九九九のダンジョンゲートが一斉にカタストロフを発生させる。
「いいね」
血湧き肉躍る心地とは、まさしくこのこと。
飛び出し、駆け抜け、戦火に身を投じたい衝動を抑えるべく、リゼを抱き寄せる。
「……ねえ、まだ? あんまり月彦に我慢させないで。可哀想でしょ」
俺の髪を手櫛で梳り、苦言を呈すリゼ。
昨日、この屋上に運び入れた機材の調整を行っていたシンギュラリティ・ガールズ。
片手だけ止めたu-aが振り返り、服の裾を払う。
「申し訳ありません。程なく整います」
幾つもの空間投影ディスプレイに指先を走らせての煩雑な作業。
常人ならば一時間は必要な量の打ち込みを、各々一分足らずのペースで熟す五姉妹。
最後に全員同時、エンターキーを叩いた。
「算出完了。マッピング、アクティブ」
u-aの口舌と併せ、数十のディスプレイに分割で表された世界地図。
「五十鈴硝子様」
「なんね」
国も陸も海も、合切を問わず明滅する、万に迫る光点。
正確な数字を御希望なら、九千八百七十五ヶ所。
「三十七秒以内に、全ポイントへ共振弾の設置をお願い致します」
暫しマップを眇める五十鈴。
程なく、バトルドレスの後ろ腰に収めた
「欠伸が出るばい」
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