722・閑話42






 始まりは静かで、唐突で。

 しかし。絶望的だった。






「ぎゃははははっ! そんでよ、そいつがナマ抜かしやがるから──」


 平日の昼間にも拘らず、コンビニ前で屯し大声で話す数人の学生。


 彼等を巻き込む形で歪む、周囲の空間。

 木の葉を裏返すかの如く、異彩の地へと景色が書き換わる。


「……へ? え、あ?」


 呆然と口を開け、立ち尽くす余裕も束の間。

 冷たい石の迷宮より、一匹のゴブリンが姿を現す。


「なっ」


 世間に最も広く名の知れたクリーチャー。

 最弱と揶揄されることも屡々の、事実その通りの存在。


 だが。三下であれ、怪物は怪物。


 人型ながらも平均的な成人男性を上回る体格と膂力、飢えた肉食動物じみた凶暴性。

 雑把に数値化した脅威度は、格闘技の有段者と同等以上。


 例えば空手の黒帯持ちが一切の躊躇も手心も加えず、ただ純粋に殺す気で向かって来たなら、どうなるか。

 深く考察を連ねるにも及ばない。概ねの只人は一方的に嬲られ、命を落とすだろう。


「ひぃぃぃぃ!? 来るな、来るなぁっ!」


 彼等のように。






 この第一例を皮切り、世界各地で同様の事例が爆発的な勢いで連鎖する。


 後の世に於いて──果たして、そんなものがあればの話だが──カタストロフ、ステージⅤ『アポカリプス』の名付けを受ける現象。


 …………。

 或いは。フェリパ・フェレス、並びにジャッカル・ジャルクジャンヌこと芦澤栞の用いていた呼称を選ぶなら、こう言い換えるべきか。






 ──『饗宴』。





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