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ビル屋上で午睡を貪っていたところ、ふと鳴り渡る薄ら寒い高音。或いは低音。
仰いだ空に亀裂が奔り、穿たれる円形の穴。
「ただいまー」
その境界を億劫げに跨ぎ、落ちて来たリゼ。
上下逆さの、着地の安全を一切考慮していない体勢。
華奢な身体を抱き止め、赤い瞳と視線を重ねる。
「おかえり。調子はどうだ?」
「お腹すいた」
通常運転極まれりだな。
鉄板敷きの作業台に積み上がる、相当な数と種類のドロップ品。
日本では入手不可能な代物もチラホラ窺える。さぞ蒐集はホネだったろう。
「あーもー疲れた。あっちこっち飛び回って目当てのクリーチャー探し回って、倒しても倒しても魔石しか落とさないストレスに耐えて……ほんっと最悪」
うつ伏せでソファに寝そべり、つらつら愚痴を並べるリゼ。
だから俺を連れて行けば良かったんだ。たかが数ヶ月分の記憶が消えるだけだっての。
「つーきーひーこー。腰もんでー、腰ー」
リターン早々、人を顎で使いやがる。
言っとくが、お前以外に同じ態度を向けられたら、即そいつの背骨を引き抜いてるぞ。
「では皆様。始めさせて頂きます」
左眼を掌で覆い、右眼のフィルターを開いたu-aが音頭を取る。
以前、呼び出しを受けた際の会合場所にも使った、五十五階の旧メンテナンスルーム。
面子は俺、リゼ、ヒルダ、五十鈴、そして──果心。
「いやはや。急な大仕事、しかも銃弾制作とは。拙は剣工なのだけれどな……」
今日の年恰好は、初めて会った時と同じ年齢性別不詳の姿。
鎚片手、肩をすくめる奇天烈クリエイターに、u-aが深々と低頭する。
「畑違いに駆り出してしまい申し訳ありません。しかし八十番台階層産のドロップ品に対する精微な加工の能う技術者が、現状では世界中ひっくるめても貴方様しか」
「こんな未熟者を煽ててくれるなよ。拙の業前など道半ばも甚だしい。上など幾らでも」
居ねぇと思う。居てたまるか。
少なくとも、樹鉄刀などという改めて考えたらワケ分からん武器と同等以上の得物、数える程度しか見たこと無い。
例えば妃陽丸とか。って、アレも果心謹製じゃねーか。
「まあ心配は無用だ。未熟者なりに、請けた仕事くらいは十全に熟すさ」
頼もしいね。
「ところで、藤堂月彦」
なんじゃらほい。
「キミに渡したフランベルジュ。使い心地は如何かな?」
ああ。アレなら那須殺生石異界を侵攻中、試しに振り回して──
「折れた」
圧縮鞄に仕舞ってあった現物を掴み取り、短く告げる。
次の粗大ゴミに出しとかんと。危うく忘れるとこだったわ、ありがとう。
奇声を上げて発狂した果心に殺されかけた。
今の俺を害せる武器が造れる時点で、やはり只者とは言い難い。
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