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「リゼ。五十鈴と連絡は?」
「ちょうど見付けたわ。ダンジョンの中」
だったら電話は繋がらねぇな。
めんど。
「今、私の視神経と聴神経を片方ずつリンクさせたから、会話は聞こえてる筈よ」
体内ナノマシン越しのリアルタイム五感取得情報同期か。
まあ、それだって本来はダンジョン内の相手と接続出来るような代物ではないが。空間歪曲によるチューニングの成せる技だろう。
練度さえ足りていれば、本当に利便性の高いスキルだな。
ともあれ、五十鈴にも俺達の会話が届いているなら、別になんでもいい。
ちなみにヒルダはと言えば。
「ふんぬぐぐぐぐ! ぬぐぐぐぐぐぐぐ!」
欲しいと強請るので代わりの布団叩きと引き換えにくれてやった不抜の剣を鞘から抜こうと、懸命に歯を食い縛ってる。
やめとけやめとけ、時間の無駄だぞ。
「ぐぎぎぎぃっ……あー! 何コレ抜けないじゃん!」
「だァから、そう言ったろ」
俺が『深度・参』を使っても、リゼが空間を歪めても、抜けるどころか壊れもしねぇ。
いっぺん果心にも見せたが、構造も材質も全く不明とのこと。
アイツに分からんってことは、誰にも分からんってことだ。
或いは元々の持ち主であるエンペラー・オブ・スットコドッコイ、つまり吉田なら何か知ってるかもだが……わざわざ聞きに行くほど関心のある話題でもないし。
つか、あのアホの居所なんぞ知らんし。
「『
豪を煮やしたのか『
しかし、ミシミシと嫌な音を立てて軋んでるのは義手の方。
「あんまムキになるなよ。持病の血圧上がっちまうぞ」
「僕は! 高血圧じゃ! ない!」
そうだっけか。
そうだったかも。
万力を搾り出し、力尽きたヒルダをソファの背に干しておく。
義手の関節部がショートしているけれど、たぶん大丈夫。
「で、だ。件の手紙とやら、見せて貰っても?」
「ああ」
対面にて脚を組んだジャッカル女史が、瀟洒な仕草で七通の封筒を此方へ差し出す。
残りの予言書、その全て。ペーパーナイフで几帳面に開けてある。
適当に一通、中身を引き抜いた。
「……?」
指先が触れた瞬間、ふと神経を伝う奇妙な感覚。
しかし奇妙と言っても、決して未知のものではない。
寧ろ、今までに幾度も味わったことのある、馴染み深い──
「…………」
三つ折りされた便箋を広げる。
何ひとつ記されていない、ペンを走らせた痕跡すら窺えない、まっさらな紙面。
だが。これは。
「成程な」
道理で馴染みを覚える筈だ。
納得しつつ、役目が果たせなくなった紙切れを握り潰す。
そして。場の面々へと、端的に見解を告げた。
「過去を改変されてる」
「自首するなら今のうちよ月彦」
こらリゼ、こら。
真っ先に俺を疑うな。傷付くぞ。
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