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差し当たり、そこら辺の情報共有を済ませなければ何にもならんため、ひどく面倒だが『ウルドの愛人』について話すことにした。
尤も、詳しく説明するのは非常にダルいので、ざっくり程度。
「既に終わった事象を書き換える異能、か」
過去を改変するスキルの存在、その特性と発動条件。
延いては、それを使った痕跡がフェリパ女史の手紙に付着している事実。
「特級のレア物だな。実に興味深い」
身を乗り出すジャッカル女史。
その眼差しに実演の期待を感じるも、生憎と制約を受けてる身だ。
アンタみたいな上玉にはサービスしたいところだが、諦めてくれ。
「けどさー、そんなの持ってる奴が居たら普通、情報とか出回るもんじゃない?」
「ヒルデガルド。目の前のバカを見てから、もっぺん同じこと言ってみなさいよ」
一方、今の今まで俺が『ウルドの愛人』を擁する事実など露ほども知らなかったヒルダに、溜息混じりでリゼが返す。
バカとは失敬な。そっちこそギリッギリで大学
「……習得スキルの申告なんざ、国によっちゃ割かしテキトーだぞ」
何せ証明の手段が乏しい。
出来ないことを出来ると言い張るのは厳しくとも、その逆は容易い。
しかも俺の場合、探索者支援協会への説明も結局は過去を差し替えて誤魔化したし。
公的な記録に於いて、今現在『ウルドの愛人』というスキルは存在しない。
そもそも隠蔽に打って付けなのだ。このチカラは。
「俺と同系統の異能を用いて、フェリパ・フェレスの手紙が改竄されたのは間違い無い」
ただ──そうなると、また別の疑問が浮かび上がる。
くしゃくしゃに丸めた便箋を見下ろす。
未だ色濃く嗅ぎ取れる過去改変の残滓。差し替えられたのは十中八九、ここ数日以内。
誰が何の目的で、斯様な真似を。
…………。
「考えたところで詮無い話か」
取り立てて探偵ごっこを興じる気分にも非ず。
そういうのは、ジャッカル女史に譲っておこう。
それよりも、だ。
「なあ、ミス預言者。そちらさんの仰る分岐点とやら、一体いつの話だったっけか?」
左眼を掌で覆っていたu-aが、俺を見遣る。
「九日後の、午前十一時四十八分です」
「昼飯時かよ。忙しねぇな」
恐らくフェリパ女史の手紙が白紙に戻った件も、無関係ではあるまい。
不自然なほどu-aのリアクションが薄い。織り込み済みだと明白。
その上で、話題には加わって来ない。
多くを話せない、或いは話したくない背景があるのだろう。
然らば、水先を向けるだけ無意味。
呼び出した理由だけ聞いて、あとは口を噤もう。
それで無断欠勤はチャラな。ザ・司法取引。
「で。お前は俺達に、どうして欲しいワケだ?」
「貴方の子供が産みたいです」
何故そうなるのか。
「孕ませて下さい」
言い方を変えれば良いって話じゃねぇよ。
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