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俺の体内ナノマシンに対するペアリング要求。
許可を出すと同時、画像データが網膜投影される。
「これは誰?」
「お前のオフクロさんだろ」
瞳の色は違うが、似てるよな。
いや、よく見たら全然似てねぇわ。
「こっちは?」
切り替わる画像。
見覚え無いオッサンの顔。
首を横に振ると、溜息の後「父様よ」と告げられた。
さっぱり記憶に御座いませぬ。
「じゃあ次」
六趣會『修羅道』こと灰銀女史だな。
オモチャみたいなナイフ一本で深層のクリーチャーをも仕留める、世界屈指の暗殺者。
「はい次」
難度八ダンジョン魔界都庁を統べる人竜、絶凍竜妃フォーマルハウト。
死後も記憶を継承した上でリポップする、非常に稀有な性質を持つクリーチャー。
「次」
誰だコイツ。
「次」
こっちも分からん。
あ、待て待て。なんか思い出しそう。
やっぱ知らんわ。考えるのが面倒になった、と言い換えても良し。
「つーぎ」
行きつけのダーツバーの店長じゃないか。
近頃は殆どレストランみたくなってるが。
ナポリタンが最高なんだよ。
「駄目ね。時間の無駄」
埒が明かない、と腕輪型端末を放り投げるリゼ。
「素で忘れてるのかスキルの代償なのか、アンタの場合、まずその判別が無理」
「まるで俺がテキトーな人間みたいな口振りじゃねぇか」
「事実、いい加減でしょうが」
なんだとこんにゃろう。
「てか信じらんない。過去の改変なんてインチキ、相当な代価を支払ってる筈だとは踏んでたけど……まさか自分の記憶を差し出してたとか、ほんと馬鹿」
大袈裟な奴め。
消えると言っても、失うのはエピソード記憶だけだ。身に付いた知識や技術は対象外。
つまり、日常生活や戦闘での不都合は何も無い。
「で?」
「あァ?」
で、とは。
「一回『ウルドの愛人』を使う度、どのくらい失くなるワケ?」
「んなもんピンキリだが……そうだな」
差し替えに伴う代償の多寡は、触れた過去の鮮度で決まる。
数分前に死んだ故人を甦らせるより、数日前に引っ繰り返した皿を戻す時の方が重い。
尤も俺の場合、発動対象は大半が直近の出来事。
六時間未満なら、精々──
「ワンプレイ十日分、てとこか。たぶんな」
「ッ」
恐らく、そこら辺が底値。
そして時が経つほど、対価の量は加速度的に増す仕組み。
例えば嘗てリゼの定期試験結果を差し替えた際は、起点となるテスト当日から既に一週間ばかり過ぎていたので、都合半年ほど支払った筈。たぶん。
何しろ忘れた内容を覚えてねぇから、たぶんとしか言えんのだよな。
「はっはっは」
「…………ああ、もう」
ちなみにスキルの根源と呼ぶべきスロットを移植する以前の過去は弄れない。
その前段階、有り得たかも知れない可能性を視ることすら能わず。
まあ、ひとつ『双血』と複合させての裏技も持ち合わせてはいるが……正直そうまでする必要のあるシチュエーションなど想像もつかん。
俺にとっては、ストレスフリーが主目的のスキルだし。
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