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直線軌道を描いていた『破界』が、しかし妖狐に触れる間際で裂ける。
綺麗なY字へと逸れ、虚空を貫く殲滅の牙先。
圧し固まったコンマ一秒足らずを経た末、掻き消える極光。
……雑な力技を弾かれたくらいで、別に驚きはしない。
ただ。完全索敵領域を掻い潜る形で唐突に現れ、幕引きに水を差した闖入者には、些かの関心が向かうのも自明。
「理由を聞いとこうか」
肌も髪も衣服も白い、ひたすらに真っ白な輪郭。
手にした細身の剣だけが漆黒を彩る、極端な色調。
黒剣を抱いた白亜。
分厚い布で目元を覆った、盲の女。
「リシュリウ・ラベル」
招集にも応じなかったテメェが、何故こんなところに居やがるんだ?
未だ呪縛式の過負荷が抜けたとは言い難い樹鉄刀に鞭打ち、赫夜を纏う。
そんな俺の戦意など気にも留めず、奴さんは此方に背を向けた。
「あら。あら、あら、あら、あら」
臥した妖狐の頬を撫ぜ、穏やかに零す呟き。
重く閉じた六眼が開き、白を捉える。
〈……貴様、ハ……〉
「てひどく、やられた、ものですね」
存在するだけで膨大なエネルギーを費やす躯体。
難度九ダンジョンボスと同程度の熱量では動くことも能わぬ、桁外れの規格。
「さがって、やすみなさい。いま、あなたをかくのは、ふつごう、ですから」
蝋燭を吹くかの如く、妖狐の姿が消え失せる。
僅かな余韻すら残さず、静まり返る階層。
──やがて。リシュリウ・ラベルは、再び俺達に向き直った。
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