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 ──卵が孵るかのように、真球へ伝う亀裂。


 二つに割れた断絶領域から、馬鹿でかいボロ雑巾が降って来る。


〈オォ……オォォッ……〉


 よく見たら妖狐だった。

 なんと悲惨な有様。黄金の毛皮は呪毒で爛れ、見る影すら無い。

 感じ取れるエネルギーも、精々が難度九のダンジョンボスと同程度まで落魄れている。


 命の数を示す尾に至っては、残り一本という瀬戸際。

 リゼめ。ひと思いに刈り尽くしてやれば良かったものを。


「ちょっと悪趣味だぞ」

「寧ろ激甘よ。光も音も無い、己以外に何も無い世界で孤独に死ぬのと比べたらね」


 成程。言われてみれば、そんな考え方もあるか。

 にしても。


「残機六つ食い取った上で、ラストワンも瀕死に持ち込むとは。尻尾一本毟るのが漸くだった自分が情けなくなるぜ」

「ばーか」


 ぽふ、と脇腹に拳が入る。


「分かってるでしょ。あの毛玉が復活する時の仕組み」

「そりゃあな。気付かねぇ方が、どうかしてる」


 尻尾が八本から七本に減った瞬間、妖狐は明らかに弱くなっていた。

 属性エレメンタルの変質も、弱体化を補うための誤魔化しを兼ねた仕掛けってワケだ。


「八本のままじゃ熱量が大き過ぎて、少しずつ削り殺す選択肢は採れなかったわ」


 しかし通常の『次元斬』を撃ったところで、尾を一本奪って終い。

 オーバーキルでは意味が無い。瞬間的な出力を抑え、持続時間を延ばし、致命傷を与え続ける必要があったと気怠く述べるリゼ。


「大体アンタが前に出なきゃ、そもそも溜めの猶予なんか……最難関をクリアしたのは、どう考えてもそっちでしょ」

「最難関、なぁ」


 だったら、MVPは斬ヶ嶺鳳慈ってことになる。

 十年以上も前、他ならぬを単騎で仕留めているのだから。


「タバコ吸いたい……お酒飲みたい……」


 ついでにヤニ切れとアルコール切れで震えてるヒルダにも、賞状と記念品の贈呈を。

 アタック中は飲酒喫煙こうぶつを断つストイックさは買うが、無理するなよジャンキー。

 リゼなんか甘味を三時間取り上げたら、そりゃ凄いことになるんだぞ。






 さて。


「長々と無様を晒させるのも忍びねぇ」


 息も絶え絶えな妖狐へと、左掌を翳す。

 今なら『破界』一発で、十分に消し飛ばせる。


「惜しみない敬意を捧げよう、白面金毛九尾の狐」


 もし尾の数が揃っていたなら、今の立ち位置は真逆だったろうさ。

 或いは、俺達全員の命を費やした上での相討ちか。


「叶うなら万全のアンタとり合いたかったが、そいつは追々」


 完全に斃し尽くせば、いずれまた九尾としてリポップする道理。

 九十階層フロアボスなど再誕に如何程の時を要するか想像もつかんが、どうせ不老だ。気長に構えよう。


「じゃあな」


 光帯を撃ち放つ。

 欠片も残さず、妖狐の存在が燃え果てる。


 そうなる筈、だった。






「ああ。ああ」






「すこし。おちつきましょう、か」





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