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 四色並行で発動させていた『双血』が俺の意思に叛き、途絶える。


 スキルが勝手に解けるなど、平時に於いては有り得ぬ話。

 とどのつまり、くたばる寸前ってシチュエーションだわな。


「あァ、くそったれ」


 再生させたばかりにも拘らず、乾いた土団子さながらに崩れる骨肉。

 アラクネの粘糸を引き絞り、強引に接合させるも、断面が上手く繋がらない。


 明らかなオーバーロード。連続で『深度・参』を使い続けた弊害。

 樹鉄を取り込み、身体能力も肉体強度も更に高まったとは言え、無理が過ぎたか。


「が、げぎ、ぐ、ご、がっ」


 些か、まずい。主要な臓器、及び脳の一部まで壊れ始めた。

 修繕にリソースを割かねばならん。数秒、何も出来ねぇ。


 ──そんな俺を他所、一旦は息絶えた妖狐が、真逆の様相を呈する。


〈ルフウゥゥ……〉


 劈く雷鳴。

 融解、霧散した属性エレメンタルが再構築され、早戻しさながらに戻り行く威容。


 七本の尾をうねらせ、起き上がる巨躯。

 爆ぜんばかりに漲る、炎から雷へと移り変わったエネルギーの奔流。


 ……蘇る都度、属性エレメンタルの性質も変化するカラクリか。

 一粒で九度美味しい、みたいなキャッチコピーが使えるな。


 尤も、こちとら既に胸焼け気味だが。


〈限界カ? 小僧〉


 狐に付いて回る狡猾な印象を如実に表した、獰猛かつ酷薄な笑み。

 舌舐めずりとは余裕なこって。喉元過ぎれば熱さを忘れるタイプか。


〈フハッ、カハハッ! 結局ハ種族ノ差ガ出タナ!〉


 高笑いに応じ、八方を貫き焦がす稲光。

 五十鈴の張った抗呪詛フィールドが、霞と消える。


〈思ワヌ煮エ湯ヲ飲マサレタガ、所詮ハ塵芥。オレノ敵デハナカッタナ〉


 妖狐の口腔にエネルギーが蒐まる。

 ブレスでトドメを刺す気か。相当お冠な模様。


「あ、あー、あ」


 しかし待て。待て待て待て待て、頼むから少し待て。ゆとりを持とうぜ。

 派手な一撃で〆は望むところだが、今ちょっと言語野がイカレてて喋れねぇんだよ。


 最期の瞬間、もう一本ほど尾を貰ってくのは兎も角、このままじゃ辞世の句が詠めん。

 長らく温めた傑作だぞ。不発で終いは、あまりにも未練で無念だ。


 ええい。この際、肺も心臓も捨て置こう。

 脳の修復急げ、間に合え、頑張れ俺。


「ぐ、がご……」

〈足掻コウトモ無駄ダ。ワタシノ尾ヲ奪ッタ貴様自身ハ勿論、貴様ノ同胞モ生カシテハ帰サン〉


 極光。大陸ひとつ、優に消し飛ばせよう出力。

 死にかけ一人を弔うには過度な荼毘。随分と買われたもんだ。


 ────。


「ッ……?」


 と。背筋に薄ら寒い感覚。

 これは。


「あー」


 腕輪型端末が壊れてしまったので、現在時刻を網膜投影させる。


 ……おいおい。まだ十秒だぞ。

 十五秒は欲しいと言ってたのに。リゼの奴、無茶しやがって。


 丁度、言語野の修理も終わった。

 動かぬ身体を糸で操って立ち上がり、妖狐を見据える。


〈覚悟ヲ決メタカ。捨テ台詞ガアレバ、聞イテヤッテモ構ワンゾ?〉

「そのつもりだったが」


 残念至極。


「時間切れだ。






 狂った笑い声に似た風切り音が疾り抜ける。

 赤とも黒ともつかぬ斬撃が、想像世界を呑み込んだ。





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