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己へ向かう敵意を呪詛に転じさせ、体内から捻じ切る『呪血』。
人を呪わば穴二つ、とでも言うべき効力を備えた、動脈に灯る黒い光。
──だが、その特質は『深度・弐』までの話。
本来なら絶縁体である空気を落雷が裂くように、過度な出力は法則のレールを外れる。
敵意の有無に関わらず、意思の有無すら構わず、ウイルスのように周囲を犯し、加速度的に範囲を広げ、果ては
それが『深度・参』の『呪血』。ほぼ完全な無差別破壊。
ちなみに何故ほぼかと言えば、リゼにだけは一切効かないからだ。
「ううぅぅぅぅるるるるるるるる」
想像世界全域を波打つ、三半規管を狂わせんばかりの歪み。
程なく亀裂が奔り、音を立てて崩れ始める。
「こいつだけは、どうにも細かい制御が……ン?」
悲鳴じみた捻転に差し込んだ銃声。
四方八方を飛び交い、そして空中に静止する弾群。
各々が線を結び、面を張り、俺と妖狐を取り囲む形で立方体を形作る。
途端、世界の崩壊が心なしか和らいだ。
「……弾丸に篭めたエネルギーを連結させてのフィールド生成……呪詛封じの結界か」
こんな芸まで熟すとは、弾の素材次第で色々と融通を利かせられるんだな。
五十鈴め。痒いところに手の行き届く、良い仕事をしやがる。
流石に『深度・参』の出力を抑え切るまでは望めずとも、十分。
多少なり侵蝕が緩めば、ヒルダとて押し負けまい。
「くくっ」
幾許かの拮抗を経て僅かずつ癒えて行く亀裂。
安定と呼ぶには程遠くも、差し当たりの猶予は伸びた。
「上出来。後でリゼ用のブルーベリーパイを分けてやるよ」
研ぎ上がった樹鉄の十爪を擦り合わせ、前屈みに構える。
自らが抱く俺への敵意により動きを鈍らせた妖狐と、視線を重ねる。
「ひとまず、てめぇの性質も、動きのクセも、力の底も、大体暴いた」
そして。それに伴う闘法の最適化も、済ませた。
「格下相手に無様を晒したくなきゃ、ボチボチ本腰入れな」
跳躍。空中で更に加速し、接近。
振り払うべく、妖狐が左前脚を持ち上げる。
「──出し惜しんだままなんてダセェ死に方、したくはねぇだろ?」
付け根から、引き千切ってやった。
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