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〈ッ……〉


 濁った六眼が薄く歪む。

 着弾と併せて砕けた金属片が傷口を抉り、煮え滾る鮮血を噴き散らす。


「おォっと」


 飛沫の一滴でも浴びれば、たちまち骨まで焼け焦げる超高温。

 しかし大きく回避行動を取ったなら、そいつは隙に直結する道理。


 故に全て紙一重、最低限の所作で躱す。

 輻射熱を受け、少し肌が爛れた。


「吐息が炎、血はマグマか」


 核兵器の爆心地に居ようと欠片も揺るがぬ『深度・参』の強度を容易く貫かれる。

 馬鹿げた熱量、巫山戯た密度。およそ生物として滅茶苦茶な体構造。


 ……いや。いや、いや、いや、いや。


「ああ。そういうことな」


 間近で血の雫を検め、得心に至る。


 妖狐コイツカタチこそ獣だが、その実態は純粋なエネルギー体だ。

 もっと深く突っ込んで言えば、限り無く物質に近いレベルで凝り固まった属性エレメンタルの結晶。


 完全索敵領域を以てしても見逃しかけた、ごく僅かな組成の違和。

 根本的な誤解が失せ、スッと胸の奥に涼風が通る。


「成程」


 デカ過ぎる、骨と肉の身体では確実に自分自身が弾け飛ぶ出力にも合点が行った。

 奴は収斂した力そのもの。まんまとガワに惑わされ、本質を見誤っていた。

 まさしく狐に抓まれたワケだ。ウケる。


「サンキュー五十鈴。お蔭で目の曇りが晴れたぜ」


 いくむすび、たるむすび、たまずめむすび。

 銃声の妙なる響きが心清め、新たな視座を齎さん。


属性エレメンタル、か」


 俺の攻撃が一切届かなかったのも当然。


「手管を違えてた」


 皮を剥ぐにも肉を斬るにも骨を断つにも、それぞれ作法がある。


 そいつは火消し、滅火に於いても同じこと。


「ハハッハァ」


 概ね攻略の筋道は整った。

 あとは俺自身に、そいつを実行出来る力量が備わっているかの問題。


 ま。


「あれば勝つ。無けりゃ死ぬ」


 それだけのシンプルな話。

 分かり易くて最高だ。





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