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 両掌を砲口に見立て、二発同時で放つ『破界』こと『破々界々』。

 その射線を重ね、更に威力と熱量を押し上げた一撃。


「鉄血──『深度・弐』──」


 そいつを全開の出力で以て、身体が融解する寸前まで、撃ち続けた。


「ッ……ヒルダァッ! なんでもいい、やれるだけデカいフィールドを創れ!」

「まーかせて」


 俺の暴力、妖狐の登壇、延いてはエネルギーの簒奪で崩壊し始めた小世界を、ヒルダの想像による産物が押し除ける。


 地平の彼方へ続く摩天楼。

 ニューヨークの比ではない高さ、広さ、密度を抱えた超高層ビル街。

 理由は本人も分からんそうだが、ヒルダにとって最も頭に浮かべやすい景色だとか。


 ともあれ、これで足場は確保した。

 こんな馬鹿げたエネルギーの持ち主と直径数百メートル程度の狭苦しい土俵で相見えること自体、死とイコール。ナンセンス極まる。


 けれどもボスが坐すのは、ここのような箱庭。

 そりゃ誰も勝てんワケだ。前提の時点で、あまりに不利。

 ヒルダが居なかったら、俺達もアウトだった。


「リゼ! 鎖を!」

「りょ」


 大鎌の口金を起点とし、螺旋を描く形で柄へ巻き付いた鎖。

 留め具代わりとなっている先端の鉤を解き、鞭さながら振り回すリゼ。


 勢い付けての、横薙ぎ一閃。

 じゃらじゃらじゃらじゃらと金属音を撒き散らし、鎖が


「つか、まえ、たっ」


 臨月呪母の改修と併せたカスタマイズにより伸縮機能を与えられた停戦の鎖ソードライン

 立ち込める白煙と陽炎の中心で佇む妖狐の体躯、その其処彼処に絡み付く。


 そして。大鎌と繋がった端を斬れば、本体から離れた部分はゴムのように縮む仕組み。

 そいつを利用し、きつく縛り上げ、一丁上がり。


「よし」


 捕縛及び捕獲完了。

 ……と言いたいところだが。こんなもの、気休めにもなるまい。


 そもそも、まだ開戦のゴングすら鳴っちゃいないんだからな。


「さァて野郎共。地獄旅行の支度は済んだか?」


 バスに押し込まれちまえば、そのまま片道切符。

 精々、後悔を残さないようにしとけよ。


「天国行きは僕だけかぁ……寂しいね」


 ヒルダが妄言を吐いてやがる。

 逝ったら一番深いとこに堕とされるのは、まず間違い無く、お前か俺だぞ。


 でも地獄の底とか、ちょい楽しそう。





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