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 手を叩く。


「お見事。中々の見世物だった」


 賛辞など聞き飽きてるであろうに、五十鈴は頰を赤く染め、俯いた。


「……全滅ね。残らず仕留めてる」


 視点移動で階層内を検めたらしいリゼが、些か怪訝そうに告げる。


「雑魚も含めて七百くらい居たのに。弾数と計算が合わないわ」


 元々シリンダーに篭めてあった分と石畳から精製した分で、計九十六発。

 成程。確かに全く足りていない。


 一対一のトレードで勘定すれば、だが。


「ワンショットにつき最低でも四。多けりゃ十ほど撃ち抜いてやがったな」

「いみふめー」

「お前も『流斬ナガレ』とか『宙絶』で、いっぺんに何十匹もズタボロにするだろ」


 リコイルを受け流し損なえば、俺でさえ肩が外れるような炸薬を仕込んだ弾。

 そいつにスキルを付与し、極端に速度を上げることで運動エネルギーを増大させ、堅牢強固な深層クラスのクリーチャーを貫いて尚も有り余るほど殺傷力を持たせてる。


 しかも五十鈴の奴、貫通時の弾道変化すら計算尽くだ。なんなら任意の方向へとズラすために様々な形状の弾頭を用立てていた模様。

 凄まじく芸が細かい。まさしく仕事人。


「そこまで使い勝手の良いチカラを持ってるでもねぇのにな」


 五十鈴がスロットに宿したスキルは、リゼと同じく六つ。


 万物を弾丸に作り替える『リロードツール』。

 自分自身、或いは触れたものに十秒間の速度強化を施す『加速アクセル』。なお重ね掛け可。

 手元から離れた物質を、慣性を保持したまま一度だけ停止させる『アカシンゴウ』。

 敵と定めた対象の位置を五感とは異なる識覚で察知する『ロックオン』。

 そして先刻『破々界々』を躱す際に使ってた、詳細のよく分からん『黄泉比良坂ヨモツヒラサカ』。


 で、最後に──なんだっけか。忘れた。


 五十鈴の説明、厨二語か博多弁オンリーなもんで、やたら翻訳に手間を食うのだ。

 そも結局はスキル名だけ聞き出し、あとは探索者支援協会のアーカイブで調べたし。


 ともあれ五十鈴の戦闘能力を支えるのは、当人の強さと扱う銃本体ってワケだ。


 何せ、ほぼ爆弾と変わらん発砲時の衝撃に幾度と晒され、しかし微塵も歪まぬ強度。

 さぞ名のあるガンスミスが、実用性ぶん投げて趣味全開で組み上げたに相違無い。

 リボルバーだし。


 …………。

 フォー・オブ・ア・カインド──フォーカード、か。


「どうしたのさツキヒコ。顔が凶悪だよ」

「いつものことでしょ」


 失敬極まる。特にリゼ。

 少々ムカついたのでヒルダの肩に手を添え、エネルギーを奪ってやった。


「あばばばばばばばばば」


 薄っぺらくも巫山戯た強度の黒鎧が、僅かに輪郭をブレさせる。


 撫でた程度の奪掠ながら、既に『破界』を八割近い出力で撃てる充実。

 馬鹿でかい熱量。どういう技術と材料で造られてやがるんだ。


 石剣共々、果心でさえ解析を諦めた代物。

 やはり俺達の住まう世界とは根底から異なる概念で編まれたのだろう。


 全く……燃えさせてくれる。


「ハハッハァ」


 近頃は今ひとつ張り合いに欠ける日々が続いたけれど、やはり世界は狭いようで広い。

 願わくば、どうか俺が惨たらしく死ぬ時まで、目一杯に楽しませてくれよな。


「──ちょ、月彦! ストップ!」

「あァ?」


 珍しく声を張り上げたリゼの静止。


 急激にエネルギーを吸い過ぎたことで──俺の左半身が、水風船さながら弾け飛ぶ。






 アラクネの粘糸と樹鉄刀の再生機能によって、秒で癒えた。





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