686
つかつかと足音を奏で、前に出る五十鈴。
一歩を踏み締める度、纏う空気が研ぎ澄まされ、張り詰めて行く。
「──ツーカード」
四丁のうち、まず後ろ腰の二丁。
銀のバレルに青薔薇を刻み、それぞれのグリップに
間髪容れずガンプレイへ移り──左右六発ずつの銃声を、ほぼ同時に轟かせた。
「『リロードツール』」
ショートブーツで踏み付けた石畳が一枚、砕ける。
八方へ躍る、燐光帯びた破片。
強く瞬き、形を歪ませ、銃弾に成り変わった。
「餓え、渇き、狂いし禽獣よ」
形質も口径も多彩な十種以上の弾頭。
五十鈴の半径二メートル圏内に、述べ七十二。
「屍肉欲しくば、爪牙を熾せ」
シリンダーが振り出され、遠心力で払い飛ぶ薬莢。
返す刀、宙に散らばる弾丸を十二、直接チャンバーへと掬い取る。
「──スリーカード」
次いで左脇腹のホルスター。
流麗な銃捌きに織り混ざる、相当な達人の目も平然と置き去るだろうジャグリング。
その動作に照準、発砲、装填の悉くが継ぎ目無く重なり、装弾数など雀の涙にも拘らずマズルフラッシュが瞬き続ける、機関銃も顔負けの連射速度。
そんな一連のモーションには、しかし微塵の綻びも無い。
とことんまでスタイリッシュを根底に据え、外連味を突き詰めた戦闘スタイル。
まさしく極点の銃技。
顔も、性格も、まるで似つかんが、そこら辺は母親の血を色濃く継いだ模様。
「──フォー・オブ・ア・カインド」
三丁を二度ずつリロードし終えた直後、右脚をサマーソルトで蹴り上げた。
脹脛の留め具が外れ、赤い空に躍り出る青薔薇。
「『
腕二本の人間では、まさしく文字通りに持て余す数のリボルバー。
投げては持ち替え、射線を見もせず撃ち、撃ち尽くせば篭め直し、また持ち替える。
──それを二巡。石畳から仕立てた弾を、きっかり使い切る間際。
おもむろに五十鈴がテンポを緩め、三秒足らずのソロライブは早々と幕引きへ移る。
「ショウ・ダウン」
スペード、クラブ、ハート。
空薬莢を排し、元通りの配置でホルスターに収めて行く。
そして。最後となるダイヤを握るや否や、俺目掛け、一発だけ残っていた弾を撃ち放つ。
「ン」
コンマ数ミリ、耳元を掠めた先で響き渡る獣の断末魔。
振り返れば、俊足で以て当方へと迫り、大顎を閉じる間際だったクリーチャー。
脳天直撃。割れた弾が体内で暴れて大惨事。
「ハハッ」
上手く弾幕を掻い潜ったとでも思ってたんだろうな、コイツ。
実際はラストの演出を決めるため、泳がされてたんだけれども。
「荼毘に付さらば、灰の色味は、みな同じ」
深いのか深くないのか判断しかねる台詞で締め、四丁全て収め終える五十鈴。
鼻を突く硝煙が、ステージに吹き込むドライアイスの如く、彼女を飾り立てていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます