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 牛骨も容易く噛み潰す咬合力での咀嚼。

 粉々に砕き、嚥下し、貪り尽くす。


「お世辞にも美味くねぇが、やっぱシンプルなエネルギー補給には魔石が一番だな」


 樹鉄刀との融合によって得た、遍く物質を養分として吸収する特性。

 なんなら触れるだけでも奪えるんだが、やはり食った方が手っ取り早い。


「『いよいよ旦那様がマジモノのモンスターになって超ウケw』」


 草を生やすな、ネット弁慶め。

 つーか、ここ深層だぞ。どうやって外の機器と電波繋いでるんだよ。


「空間歪曲の応用にゃん」


 心を読むな。

 あと。


「もっぺん言ってくれ。にゃん」

「にゃーん」






 五十七階層に下りると同時、再び一瞬だけ『豪血』を繰り出し、索敵を行う。

 ここでも軽く五百体以上のクリーチャー共が、其処彼処で争っていた。


「どうすっかな」


 また『破々界々』をブッ放すのでは芸に欠ける。

 かと言って、プチプチ一匹ずつ潰しに赴く気分にも非ず。


「リゼ」

「嫌よ面倒臭い」


 ですよね。


 ──深層のクリーチャーを縊るにあたり『流斬ナガレ』では些か威力不足。

 ガード不能の『空間斬』は、得物の刃のみに適用される近接戦専用の技。


 習得者自身を発動媒体とする『ベルダンディーの後押し』が齎す空間歪曲。

 そいつを『飛斬』へ乗せる──即ち『宙絶』へと昇華させるには、歪めた空間内を呪詛で満たし、意識を憑依させねばならん。


 しかも、この規模の階層全域にバラ撒くとなると、最低でも六割ムツキ七割ナナツキの出力が要る。

 呪詛の量に応じ、制御難度が跳ね上がる技だ。ダンジョン内での空間転移に不可欠な、要は使い慣れた五割イツツキまでなら兎も角、それ以上をポンポンと繰り出したくはあるまい。


「じゃあツキヒコ、僕がやろうか? 最近スパコン級の演算装置を脳に埋め込んだから、ブラックホールとかγ線バーストとかも創れるようになったんだよ」

「ほー。そりゃ大したもんだ」

「車の免許取ったくらいのノリで報告する内容じゃないわね。滅びるでしょ、太陽系」


 至極尤もなリゼの言。

 個人的には是非とも拝みたいが……ここはひとつ、見せ場を譲ってやって欲しい。


「五十鈴」

「ひゃいっ」


 俺と一緒だと極端に口数の少なくなるミス・デリケートを、そっと呼び立てる。

 彼女の胸元に下がった一発の弾丸が、ちゃり、と甲高く音を奏でた。


「四丁拳銃を奮った至高の妙技。御披露のほど頂けるかな?」

「…………真理と深淵に、瞳を浸せ。鉛の悲鳴は徒花に似る」


 つまり「見逃すな」ってコトで良いのか、この台詞。

 横目でリゼを仰ぐも、私に聞くなと言わんばかり、渋面で首を振られるのだった。





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