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「そう言えば樹鉄刀云々の件、ちゃんと説明する約束だったな」


 焦土を駆け抜け、大小様々な魔石とドロップ品を回収した後、ポンと手を叩く。

 皮膚が外骨格並みに硬いため、実際はガンッて感じだが。


「月齢七ツが無けりゃ『破界』は撃てねぇ。その通りだし、今も普通に使ってたさ」

「はあ? いつよ」


 いつと問われりゃ、そらですとも。

 ……実際に見せた方が手っ取り早いか。


「『斬式・蓬莱』」


 左腕を翳す。

 蔦や根の如し何本もの樹鉄が、肌を食い破るように突き出した。


「ぷぎにゃー!?」

「おお……!」


 それを見て珍妙な悲鳴を上げるヒルダ。何故か目を輝かせる五十鈴。


 樹鉄は俺の手中で絡み合い、輪郭を編み、やがて長剣となる。

 なお今回は解説用にじっくり数秒かけて造ったが、本来の製造工程は瞬きよりも速い。

 弊社の納期はブラックなのだ。毎日がデスマーチ。


「アンタ、まさか」


 眉間に皺を寄せたリゼの視線が刺さる。

 恐らく想像通りでしょうとも。


「俺自身を、樹鉄刀の核にした」






 ──如何に高い再生力を持とうと、それを統制する基盤が損なわれれば意味は無い。


 こいつを受け取った時の、果心の言葉を思い出す。


 ──故に貴様を、月齢七ツの中枢に据える。


 そうすれば俺が息絶える瞬間まで、あらゆる機能が停まることは無い理屈。

 かなり強引だが、実に上手い強化案を捻り出したもんだと素直に感心させられた。


 ──ただし、施術に於いては地獄の苦痛が貴様を襲うぞ。

 ──さっさとやれよ。たかが痛みで人が死ぬかっての。


 意味分からん脅しを受けたものの、方法自体は至極単純だった。


 液状化させ、体内に注入するだけ。

 あとは腹を空かせた樹鉄刀が宿主を求め、細胞ひとつに至るまで噛み付いて完了。

 イメージとしては寄生樹や合金化を想像すれば、当たらずとも遠からずとか。


 ちなみに注射針が毛先ほども刺さってくれないもんで、だいぶ手間を食った。

 結局は爪で首の肉を抉り、そこから注ぎ込んだワケだし。


 更に付け加えると、リゼが俺の魂に触れて違和感を覚えたのも、この施術が原因。


 元々、樹鉄刀は既に俺の一部だった。

 一層の同化を図れば、細胞よりも深い域へと溶け込むのは自明の理。


 スロット移植手術の後遺症……魂の亀裂を、補修剤パテの如く埋め立てたのだ。

 お陰で呪詛耐性爆上がり。女隷抜きでも、そこそこの呪毒なら振り払えるくらいには。


 尤も、隙あらば俺を喰う心算が透けて見えるのは変わらんが。

 まあ不満は無い。寧ろ、そう来なくてはハリに欠ける。

 女隷は従順過ぎて、少し退屈だ。


 …………。


「不安げな顔するなよ。お前を怪我させることだけは万一にも有り得んから、安心しろ」

「そんな心配、頭にも浮かばなかったわよ」


 然らば何故、リゼは形容し難い眼差しで此方を見ているのだろう。

 なんなら執拗に脛を蹴って来るんだが。

 やめたまえよ。





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