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 石畳が敷き詰められた地平に乱立する、無数の鳥居。

 懐かしき哉、那須殺生石異界深層部。エリア名なんだっけ。忘れた。まあいいや。


 にしても。


「流石カタストロフの真っ只中」


 一瞬『豪血』を発動させ、完全索敵領域を拡げたところ、随分な荒れよう。

 雑多な怪物達が犇き、蠱毒さながらに殺し合う世紀末状態。


 尤も概ね、より深くを塒とする奴等の圧勝みたいだが。

 当然と言えば当然。クリーチャーが内包するエネルギーの総量も出力も、十階層毎に大きく跳ね上がる。暴走による過剰活性が加わろうと、そうそう勝てまい。

 そも深層の連中だってブーストは受けているのだ。基礎値が段違いな分、寧ろ格差は開く一方だろう。


 ──と、理屈臭い講釈は置いといて。


「リゼ。ここ幾つだ?」

「五十六階層」


 イソロクね。框を跨いだあたりか。

 程良い塩梅だ。順繰りに磨り潰しつつ下って行けば、終点頃には青色吐息。

 カタストロフを終わらせさえすりゃ、今こうやって申請抜きでダンジョン入りしてる規則違反も目溢される、てな寸法よ。

 こっちは存分に楽しめるし、まさしく一石二鳥。


「なんなら申請通さず踏み込んだのは受付どころか本部内に誰も居なかった所為という、完璧な理論武装も用意済み」

「急に妄言を吐き始めたわね」

「典型的な後付けの言い訳。しかもかなり無理あるタイプ」


 リゼもヒルダも、喧嘩なら買うぞ。

 それぞれ無糖紅茶の刑と、心臓抉り出しの刑に処す。


 ……まあ、そいつはひとまず後に回すとして、だ。

 差し当たり、スターターピストル代わりに一発、デカい花火をブッ放そう。






 空気中、並びに足をつけた石畳からエネルギーを吸い上げる。

 その速度も量も以前とは比較にもならん。やはり果心は超一流の剣工ですよ。

 性格に難あるけども。あり過ぎるけども。


「三つ数えたら撃つ」

「そーいん退避。死んでも労災おりないわよ」


 気怠く、しかし逸早く幽体と化し、併せて亜空間へと隠れるリゼ。

 多重に『空想イマジナリー力学ストレングス』の力場を纏い、防壁と成すヒルダ。

 、布のように翻し、姿を消した五十鈴。


「いーち」


 発射。


「鉄血──『破々界々ははかいかい』」


 やれそうだったので今初めて試した、両腕同時の『破界』。

 射線をズラしつつ、計七発の連射で以て、全方位を灼き尽くす。


 立ち込めた白煙が晴れると、階層全域は物の見事、焦土と果てていた。


「熱いな」


 確と『鉄血』を用いて尚、臓腑が焦げる寸前。

 背中に放熱用の排気口はが、間に合わんか。吸った分のエネルギーも使い果たしたし。


「いやちょっとツキヒコ! 二と三は!?」

「知るかよ、んな数字。男は一だけ覚えときゃ人生上手く運ぶ」

「バカなの!?」


 酷い言い草だ。よりによってヒルダからバカ扱いされるとか、傷付くわ。

 脇腹突き破ってアバラ何本か引き抜くぞ。





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