681
「ありがとう『魔人』殿。実に興味深い話の数々だった」
出発までの退屈を凌ぐべく、質問責めに付き合うこと約半刻。
概ね満足したのか、小洒落た装丁のメモ帳を閉じ、胸の谷間に仕舞うジャッカル女史。
その収納方法を実際やる奴、初めて見た。
「情報提供の返礼とは言えまいが、ひとつオレも特技を披露しよう」
そんな口上と共に、何故か一枚、写真を撮られる。
ネットにでも晒す気か。肖像権の侵害だぞ、別に構わんけども。
「既に承知と思うが、
知ってるとも。ハガネに聞いた。
つか聞く前から薄々は勘付いてた。どこか違う、と。
呼称は確か──ゴスペル、だったか。
「実のところ、スキル以外の異能を扱う者は注意深く探せば割と居るぞ? 各々、宿すに至った経緯などは十人十色だが」
「どーでもいい」
スキルだのゴスペルだの、更に別の何かだの、そんな区分に興味は無い。
強いか弱いか。俺の関心は、その一点に尽きる。
「そうか……ともあれ、オレの
写真一枚で、ねぇ。そいつは中々に大したもんだ。
しかし、基本的な肉体情報はナノマシンでスキャン可能だぞ。何を暴くと申すのか。
「スマホやパソコンなどの電算機を発動媒体にするんだが、昔は時間が掛かってな」
情報化社会に於いて、技術とは日進月歩。それは事象革命以降、より顕著となった。
取り分け電子機器類は、三年もあれば最新型が化石同然。
十秒と待たず、無機質なメロディが鳴り響いた。
「よーし解析完了。さあ、音に聞こえた『魔人』の全貌が今、明らかに──」
高らかな語りを尻切れ蜻蛉、ジャッカル女史の大仰極まる身振り手振りが止まる。
空間投影ディスプレイを見遣る双眸が、少しずつ驚きの色を帯びて行く。
何そのリアクション。
少なくとも深刻な病気とかは患ってない筈だぞ。
「…………『魔人』殿」
神妙な呼び声。
併せて、データが体内ナノマシンへと転送される。
そいつを網膜投影し、内容を検め──脳裏に疑問符が踊った。
「失礼かも知れんが、心当たりは?」
あるワケねぇだろ、こんなもん。
その後、幾らか議論を重ねるも、当たり前だが答えは出ない。
そも、考えたところで埒の明くような話に非ず。
当人と顔を合わせた際に問い質す他、解を得る術などあるまい。
…………。
にしたって意味不明。ワケ分からんにも程がある。
「どういうことだ」
冗談の類なら、もう少し分かりやすく洒落を利かせてくれ。
ただ突飛な内容を叩き付けられても、対応に困る。
何故、俺の母親が、あの女──
──リシュリウ・ラベルになるんだよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます