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「ありがとう『魔人』殿。実に興味深い話の数々だった」


 出発までの退屈を凌ぐべく、質問責めに付き合うこと約半刻。

 概ね満足したのか、小洒落た装丁のメモ帳を閉じ、胸の谷間に仕舞うジャッカル女史。

 その収納方法を実際やる奴、初めて見た。


「情報提供の返礼とは言えまいが、ひとつオレも特技を披露しよう」


 そんな口上と共に、何故か一枚、写真を撮られる。

 ネットにでも晒す気か。肖像権の侵害だぞ、別に構わんけども。


「既に承知と思うが、六趣會われわれのチカラは、君達のスキルとは起源を異にする代物でな」


 知ってるとも。ハガネに聞いた。

 つか聞く前から薄々は勘付いてた。どこか違う、と。

 呼称は確か──ゴスペル、だったか。


「実のところ、スキル以外の異能を扱う者は注意深く探せば割と居るぞ? 各々、宿すに至った経緯などは十人十色だが」

「どーでもいい」


 スキルだのゴスペルだの、更に別の何かだの、そんな区分に興味は無い。

 強いか弱いか。俺の関心は、その一点に尽きる。


「そうか……ともあれ、オレの異能ゴスペルは解析が得意でな。こいつで『魔人』殿自身も知り得ぬ謎を暴いて進ぜよう」


 写真一枚で、ねぇ。そいつは中々に大したもんだ。

 しかし、基本的な肉体情報はナノマシンでスキャン可能だぞ。何を暴くと申すのか。


「スマホやパソコンなどの電算機を発動媒体にするんだが、昔は時間が掛かってな」


 情報化社会に於いて、技術とは日進月歩。それは事象革命以降、より顕著となった。

 取り分け電子機器類は、三年もあれば最新型が化石同然。


 十秒と待たず、無機質なメロディが鳴り響いた。


「よーし解析完了。さあ、音に聞こえた『魔人』の全貌が今、明らかに──」


 高らかな語りを尻切れ蜻蛉、ジャッカル女史の大仰極まる身振り手振りが止まる。

 空間投影ディスプレイを見遣る双眸が、少しずつ驚きの色を帯びて行く。


 何そのリアクション。

 少なくとも深刻な病気とかは患ってない筈だぞ。


「…………『魔人』殿」


 神妙な呼び声。

 併せて、データが体内ナノマシンへと転送される。


 そいつを網膜投影し、内容を検め──脳裏に疑問符が踊った。


「失礼かも知れんが、心当たりは?」


 あるワケねぇだろ、こんなもん。






 その後、幾らか議論を重ねるも、当たり前だが答えは出ない。


 そも、考えたところで埒の明くような話に非ず。

 と顔を合わせた際に問い質す他、解を得る術などあるまい。


 …………。

 にしたって意味不明。ワケ分からんにも程がある。


「どういうことだ」


 冗談の類なら、もう少し分かりやすく洒落を利かせてくれ。

 ただ突飛な内容を叩き付けられても、対応に困る。






 何故、俺のが、あの女──






 ──リシュリウ・ラベルになるんだよ。





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