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急激な消耗で腹を空かせたリゼの前に、手持ちの菓子や弁当を並べる。
端から貪られるもんで、中々テーブルが埋まらねぇ。
食い方自体は丁寧なのに凄まじいスピード。毎度毎度、不思議でならん。
「ヒルダ。五十鈴の容態はどうだ」
「ガタガタブルブルからピクピクって感じ」
峠は越したか。なら出発までには目を覚ますだろう。
良かった良かった。
「ふむ。つまり先程の技は、相当なリスクの上に成り立っていると?」
隣に座るキョウ氏の肩へ頭を預け、カリカリとメモ帳にペンを走らすジャッカル女史。
……どうでもいいが、妻帯者相手の距離感に非ず。
カルメン女史といい、灰銀女史といい……もしや六趣會の内部関係って、薄皮一枚剥いたら、かなりアレなのではなかろうか。
なんか怖いし、深く追求せんとこ。やぶ蛇。
「まさしく破壊の権化と呼ぶべき攻撃力。にも拘らず代償が一キロ分の骨肉のみとは、俄かに信じ難かったが……」
「あくまで切っ掛けだ。スロットマシンを回すために入れるコインみてーなもんさ」
歪曲空間を呪詛で侵食、然る後『
そいつを完璧に御し、万象斬り裂く一刀と成した絶技こそ『宙絶』。
一を十に、二を五十に、三を二百に。
元となる
例えば、嘗て難度六ダンジョンボスの八尺様と刃を交えた時は『処除懐帯』でも仕留め切れなかったが、これを『宙絶』に置き換えたなら
当時と今とではリゼ自身の練度上昇も著しいが、そいつを差っ引いても差は歴然。
スキル複合とは即ち掛け算。扱い方ひとつで何倍にも何乗にも飛躍を遂げる道理。
──ただし当然、制御の難度も比例する。
目隠しで針に糸を通す行為が、赤子のハイハイより容易く感じるほど。
縦しんばリゼ以外の適当なスロット持ち一万人に同じスキル群を与えたとしても誰一人成し得ない、難事中の難事。
実際に試したから知っている。
正しくは、試した結果どうなるかをu-aに聞いたから知っている。
「ちょいとコントロールをミスれば、最低でも半径数キロ巻き込んでドカンだ」
「そんな技を涼しい顔で繰り出せるのか……」
流石のジャッカル女史も少々引き気味。
なんとはなしリゼの肩を抱き寄せ、艶やかな黒髪に手櫛を通す。
「特別なのさ、コイツは。世界中駆け回ったって代わりなんざ居やしねぇくらいにな」
「ん」
フォークに刺さったステーキ肉が差し出される。
大口開けて、食らい取った。
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