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ちょうどビルの高層階に居たため、そのまま屋上へ出る。
きな臭い風が心地良い。不穏な空気を感じたらワクワクする性分なのだ。
「今日は雲ばかりで陰気な空模様だね。月サイズの流星群でも降らせたら晴れるかな」
「『破界』」
ヒルダが地球粉砕規模の要らん思い付きを実行するより先、頭上へ光波を放つ。
大気圏の遥か先まで突き抜ける閃耀。
差し当たり、北半球側の雲は残らず吹き飛んだ。
「ほら晴れたぞ」
勢い余ってオゾン層どころかヴァン・アレン帯まで灼いちまったが。
指を鳴らし、宇宙線の降り注ぐ穴を無かったものとして差し替える。
……出力上限、及びチャージ速度がアホほど跳ねてる影響で、少し加減を間違えたか。
仮に足元を貫いていれば、何もかも丸ごと消え失せただろう。
まあ今のは適当に撃ったがゆえのミス。そこら辺を雑にしがちなのは悪い癖だ。
技名に恥じぬだけの暴威を得たこと自体は喜ばしいが、次からは気を付けよう。
だがしかし、いつかやってみたいもんだな。
この
「ちょっと待って月彦。アンタ樹鉄刀ナシで、どうやって『破界』撃ったの」
女隷の長手袋しか嵌めていない、例の如く『鉄血』発動を不精した所為で少し焦げた両腕を見遣り、怪訝そうに尋ねてくるリゼ。
流石は我が妻。いいところに目を付ける。
「くっくっく」
「さては教える気が無いわね」
注がれる半眼。幽体化させた手首が俺の身体を貫く。
そのまま、かりかりと魂を引っ掻かれた。
「……? なんか、いつもと感触が……」
「ええい、くすぐったい」
地味に効果的な嫌がらせはヤメロ。
ちゃんと後で説明するから、まずは仕事を済ませてくれ。
「はいはい」
ぞんざいな返事。
実体へと戻した指先を舐め、ゆるりと踵を返すリゼ。
そして屋上の端、異界側に面するフェンス際まで歩み、臨月呪母を喚び寄せた。
「リゼ、何する気なの?」
ふよふよと逆さに浮くヒルダの問い。
そう言えば俺以外、誰も見たこと無かったっけな。
何せ繰り出したのは、今日に至るまで一度きり。
その一度すら、あまりに被害がデカ過ぎて差し替えざるを得なかった有様。
「『処除懐帯』と『空間斬』の複合斬撃だ」
とどのつまりは最大出力での『宙絶』。
だが『宙絶』とは、あらゆる点で一線を画す。
「ま、すぐ分かるさ」
万象遍く塵芥と帰せしめる、滅界の兇刃。
呪詛と空間歪曲の乗算を受け、こと火力に於いては無二へと至った文字通りの一振。
絶技の名を──『次元斬』。
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