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「最早、猶予は無い! 事態は一刻を争う!」
俺達を呼び集めた政府側の人間、偉ぶった髭面の役人が仰々しく円卓を叩く。
同じタイミングで机上に放り出した足を数ミリだけ浮かせ、軽く踵を打ち付ける。
分厚い天板が真っ二つに割れた。
「あーあ。壊しやがった」
「いやアンタでしょ、どう考えても」
それってリゼちーの感想ですよね。あくまで同時よ同時。
疑わしきは罰せず。悠長極まれりで失笑を誘う考え方だが、名目上この国の大原則だ。
──指を鳴らし、円卓が壊れなかった過去へと差し替える。
廃材囲んで話し合いとか絵面的に間抜けだし。
「ごめん、ごめんよ
「父しゃんな悪うなかばい。や、そん警戒心の無しゃは、どうかて思うばってん。カルメンしゃんが父しゃんば女ん目で見よーことくらい、うちでも分かっとったし」
「寧ろ今まで押し倒されなかったのが不思議だ。ハガネの手前、我慢していたんだろう」
相変わらず部屋の隅で膝抱えて塞ぎ込むキョウ氏を慰める五十鈴。
そんな彼女の言葉に同意を示すが如く、ジャッカル女史も繰り返し頷いてる。
ところで両親共々標準語準拠の喋り方なのに、なにゆえ娘だけ博多弁。
祖父母あたりの影響かな。家族構成なぞ知らんけど。
「『禁煙』の掲示に煙を吹きかけるのが、一番美味しい煙草の吸い方だねぇ……」
三本纏めて紙巻きを咥えたヒルダの、誰に向けるでもない呟き。
最低のヤニカス発言。そんなだから喫煙者全般が民度を疑われるんだよ。
にしても酷い有様である。役人の話を真面目に聞いてるの
「なンだ」
実のところ
嫌日思想こそ玉に瑕だけれど、招集に応じる大人の対応、公私の区別は出来てるし。
次点で五十鈴。
「頑張れ
ティーカップを思いっきり投げ付けられた。
解せぬ。
チクタクチクタク、時計が回る。
退屈なほど、針の進みは遅くなる。
「現在、宇都宮市周辺には逃げ遅れた避難民が約百万人。中即連が主導となって防衛ラインを敷いており、展開した沈黙部隊が近郊の安全化を──」
チクタクチクタク、時計が回る。
すっかり冷めてしまった三杯目のコーヒーを飲み干す。
──ぼちぼち長話にも飽きたな。
「行くぞ、お前ら」
特に意味も無く、スタイリッシュに席を立つ。
応じる形で、リゼ達も続いた。
「ま、待て! 何処へ行くつもりだ!?」
慌てて呼び止める役人。視線だけ向ける。
何処って、決まってんだろ。
「那須殺生石異界。元々そのつもりで来たんだからな」
カタストロフでブーストかかった難度十ダンジョンのクリーチャーとか、堪んねぇ。
「なっ……馬鹿な! 君達の役割は救出ルートの確保だ! 勝手な行動は許さん、況して特異点への侵攻など!」
うるせーなー。叩き潰すぞ。
大体どの道、元凶を抑えなけりゃ事態の収拾は見込めねぇだろ。
……とは言え、あまり好き勝手やって今後の活動に横槍が入るのも面倒。
それにポンコツ政府は兎も角、探索者支援協会には色々と融通を利かせて貰ってる立場なワケだし、その分は顔を立てねばなるまい。
然らば。
「リゼ」
「なに」
隣に立つ相方の肩を抱く。
併せ、耳元で請う。
「根こそぎ斬ってくれ」
「りょ」
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