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すっかり青褪め、終いには懺悔など始めたキョウ氏を五十鈴が隅へ連れて行った。
まあチーム間、延いて家族間のイザコザは、そっちで片付けておいてくれ。いちいち首突っ込むほど野次馬根性旺盛でもないんでね。
それより。
「なあ、ジャッカルさんよ」
五十鈴の体内ナノマシンから吸い出した五感取得情報。
そいつを室内の機器で映像化、空間投影する。
──尋常ならざる光を放ち、脈動と明滅を繰り返すダンジョンゲート。
その波動を受け、摂理を塗り替えられて行く地水火風空。
すげぇ笑える。
だが。併せて脳裏に、ひとつの疑問。
「アンタ何か知ってるのか?」
そもそも。
「こうなるのを避けるために、一年前あの赤ん坊を狩ったんじゃねぇのかよ」
那須殺生石異界八十九階層の最奥にて微睡んでいた異形の嬰児。
眠り眠り眠り続け、そして目醒めを迎えると同時、条件も段階も一切を無視し、カタストロフのステージⅣを強制的に引き起こすという魔性。
ⅢとⅣの違いこそあれ、この一件に奴の存在が全く無関係だとは考え難い。
新たな個体が生まれたのか、或いは仕留め損なっていたのか……そこら辺ハッキリさせておかなければ喉に小骨が痞えたみたいで気持ち悪い。
「コトの裏側を御存知なら、是非とも教授を願い出たいんだが」
「…………」
沈黙。
リゼが飴の包装紙を破く音、ヒルダが煙草に火を点ける音、
幾つかのガヤを挟んだ後、ジャッカル女史は硬い表情で胸元に手を添えた。
「オレにも分からない」
「ほー」
フェリパ女史が生前に遺した、様々な理由で大々的に公表出来ない、しかし放置すれば甚大な被害が降り注ぐ案件について綴った十三通の手紙。
それら全ての概要を予め伝え聞いている筈のジャッカル女史が存じ上げぬとなると、つまり此度のカタストロフは。
「未来予知の外の出来事ってワケか」
「或いは敢えてオレにも教えていないか。どちらにせよ全くの想定外だ」
額に掌を押し当てるジャッカル女史。
つか、知ってりゃハガネとシンゲンを音信不通にさせとく理由が無いわな。
少し考えれば辿り着く結論だった。馬鹿な質問しちまった。
「……済まない。君達に足労をかけさせておきながら、結局このようなことに」
「あァ?」
なんで謝るんだろ。意味不明。
こちとら寧ろワクワクが止まらねぇってのに。
「ぅえ、まっず。月彦あげる」
「もが」
舐めかけの棒付きキャンディを口の中に突っ込まれた。
舌に馴染みのある甘味。
遅れて訪れる、粘ついたえぐみ。
「ひでぇ。なんのフレーバーだ」
「あの日の初恋味」
いや、どの日?
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