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 …………。

 うん。ひとまず言わせてくれ。


「すこぶる集まりが悪りぃな、オイ」


 此度の緊急招集を受けたのは、今期の一桁シングルランカー並びに『十三の牙』。

 ジャッカル女史を除いた八人の一桁シングルが『牙』も兼ねるため、都合十四人。


「半分しか居ねぇ」


 俺達シキ組で四人。

 六趣會からジャッカル女史とキョウ氏で六人。


 そして。


「ようウェイ。調子どうよ?」

「……親しゲに話しかけルな」


 壁に寄りかかり、明後日を向くウェイ

 にべもない。無愛想な女だ。


「久々に会う友人への態度とは思えんな」

「誰ガ!」


 心底忌々しげに中指を立てられた。

 ヒステリーはモテんぞ。






 しかし。


「リシュリウ・ラベルが顔を出すとは、まあハナから思っちゃいなかったが」


 奴率いるチーム、ブラックマリアに属すると聞く三人の『牙』も欠席か。


 つまんね。来た甲斐が無い。

 やはり期待なぞ抱いたところで、裏切られるばかりだ。


 てか。


「六趣會まで過半数ボイコットとは。ハガネとシンゲンは何やってんだよ」

「二人は折悪く国外の難度十ダンジョンに潜っていてな。連絡が取れん」


 肩をすくめ、ジャッカル女史が告げる。


「ここ半年での難度九未踏破ダンジョンを拓いた君達の活躍に触発されたようだ」


 そいつは結構な話。


「シンゲンは長らく好敵手の類と無縁だった所為か、かなり燃えてる。ハガネに至っては……『魔人』殿に一度、敗けたからだろう。鬼気迫るものを感じる」


 益々以て結構な話。

 両名共、前に会った時より腕を上げてくれてると喜ばしい。


 が、ちょい待ち。


「残り二人は? 特にカルメンは『牙』だろ」

「…………あー」


 何故か口籠るジャッカル女史。

 暫し呻いて、深々と溜息ひとつ絞り出し、歯切れ悪くも再び口を開く。


「灰銀は地下牢に閉じ込めてある。出すと危ない」


 地下牢。閉じ込め。危ない。

 不穏なワードの数珠繋ぎに、眉根を寄せた。


「カルメンは……その……」

「ジャッカル。俺が話すよ」


 そう言って尻すぼみな口舌を引き継いだのは、いつにも増し顔色の冴えないキョウ氏。

 俺達、取り分け娘御である五十鈴を気にしつつ、やがて意を決めた風に切り出した。


「ちょうど三十週目に入ったところなんだ」

「あァ?」


 何がだよ。


「……えっと、つまり……妊娠中で……」

「は? クレス大叔母様が?」


 目を瞬かせるリゼ。

 親族のコイツも初耳な模様。


「相手は誰よ。あの人、独身の筈なんだけど」


 マジか。


「……父しゃん……あんた、まさか……」


 五十鈴の表情が引き攣る。

 そんな娘の視線に耐えられなかったらしいキョウ氏が、弾かれたように五体投地。


 つまり土下座である。


「あー成程。痴情の縺れか」

「不義密通トは、汚らわシい」


 ゴミを見る目で吐き捨てるウェイ

 やめろよ。泣いたらどーすんだよ。


「わぁ……ァ……」


 泣いちゃった。






 尚。更に深掘りしたところ、まだこのことをハガネは知らないとか。


 普通に地雷案件。特級の地雷案件。チーム存亡の危機レベルで地雷案件。

 大丈夫かよ六趣會。招集なんぞ応じてる場合じゃねーだろ常考。





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