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 数あるダンジョン禍に於いて最悪へと位置付けられた大災害、カタストロフ。

 ゲート内に広がる小世界の許容量を超えたエネルギー蓄積が齎す、一種の暴走。


 ──カタストロフは、その進行度に伴い、四つのステージに区分される。


 階層帯を無視したクリーチャーの渾然、ステージⅠ『イレギュラーエンカウント』。

 渾然を重ねたクリーチャー達が地上まで氾濫するステージⅡ『スタンピード』。

 氾濫の影響を受け、ゲート周辺一帯が異次元化するステージⅢ『インベーション』。

 異次元化した空間がダンジョン内へと呑み込まれるステージⅣ『バニッシュ』。


 そして此度、那須殺生石異界で観測されたのは、ステージⅢ。


 事象革命より四十年余。

 聖女フェリパ・フェレスからの警鐘と未来技術の提供を受け、ただ一度の例外も無く、ステージⅠで留まり続けた厄災。


 その拒馬が破られ、世界は今、張り詰めた糸の如し緊迫に包まれている。






「ハハハハハハハハッ! まさに壮観ってヤツだなオイ!」


 福島県白河市、上空。

 那須町を起点に大半が異界と果てた栃木全域を見下ろし、高笑う。


「マジでダンジョンの外をクリーチャーが彷徨いてやがる」


 豪炎に包まれる山野、水没したビル群、暴れ回るバケモノ達。

 些か月並みだが、故にこそリアリティを孕んだ終末絵図。


 こいつは中々、素敵に愉快だ。


「つーきーひーこー」

「ン」


 下からリゼの呼び付け。アイツの声は良く聴こえる。

 動脈に赤く灯る『豪血』を解き、真っ逆さま。


「鉄血」


 二十四秒の落下。

 着地の間際、静脈に青光を伝わせ、左腕を伸ばす。


「ただいま」


 五指を突き立てたアスファルトに深々と奔る、蜘蛛の巣状の亀裂。

 うむ、良い塩梅の罅割れ具合。八十五点を進呈しよう。


「殆どエイリアンの類よね。防具のデザインも猟奇的だし」


 破壊圏内の五センチ外側に立つリゼの野次。

 誰がエイリアンか。


「あの高さ、あの速度で落ちて、なんでこの程度しか地面が砕けないのかな……」


 不思議そうな顔で、上と下を交互に見比べるヒルダ。

 そんなもん決まってるだろ。


「受け流す衝撃の量を調整したんだ。着地痕が芸術的になるようにな」

「げーじつ」


 そう、げーじつ。






「五十鈴は?」

「今こっちに向かってるわね」


 スキル『ナスカの絵描き』と『ベルダンディーの後押し』を組み合わせた視点移動、要は遠視能力クレアボヤンスを用いたリゼの言。


 一帯を呑み込んだ異界の核となっている探索者支援協会本部まで斥候中の五十鈴。

 本当は俺が行きたかったのだが、公明正大なる抽選クジの結果だ。致し方あるまい。


「アイツが戻ったら、集合場所へ向かうか」


 そこに居るだろう『十三の牙』の顔触れを見ておきたい。


 メディア曰く、人類最強の十三人。

 精々、地表を余さず吹き飛ばす程度の隕石ひとつブッ壊したくらいで大袈裟な上、そも過度な期待は落胆を招くと沈黙部隊の一件で学んだものの、多少はね。


 なればこそ政府の招集に応じたワケだし。

 そうでもなければ、連絡など待たず条件反射で凸ってた。






 何より──ジャッカル女史に問い質したいことも、あるからな。





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