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「ルーナーくーん!」
都心に建つ南鳥羽カンパニー本社ビル。
その屋上で風を浴びていたら、護衛対象の一機であるところの6THが現れた。
パリピとのエンカウントは往々に唐突。ソースは吉田。
「何やってるー?」
「特に何も。敢えて言えば、何もしないをしてる」
「あはははははっ! ウケんね!」
カラフルな髪を揺らし、人工物とは思えぬ仕草で笑うオーバーテクノロジーの塊。
リゼ曰く「u-a以外は魂を持っていない」ため、即ちAIの感情再現によるものなのだが……半世紀先の技術を駆使すれば、斯くも自然な表情を作り出せるらしい。
「俺に用か?」
「父上が呼んでた系! うぇーい!」
「うぇーい」
何故かハイタッチを求められたので、なんとなく応じてみる。
またも笑い転げる6TH。そういう年頃か。
一人と一機で社内を歩く。
概ね足早な従業員達とすれ違う度、俺達へ向く意識と視線。
気紛れに見返せば、慌てて逸らされる。
俺は猛獣か何かかよ。
「やっぱ企業勤めってのは肌に合わねぇ。堅苦しい背広も」
もう辞めようかな。まだ十日目そこらだけど。
「ン」
スマホに着信。
なんじゃらほい。
〔辞表を出そうとも握り潰しますので、悪しからず〕
u-aだった。
未来予知で人の行動を先取りするんじゃねぇよ。
〔それと、早く集まって下さい。時間が押しています〕
はいはい。せっかちなロボ子め。
辿り着いた目的地、七十七階の会議室。
しかし、急かされたにも拘らず、そこに居たのは俺と一緒だった6THを除くシンギュラリティ・ガールズの面々のみ。
「ナントカ博士は?」
「パパは別の部屋で会社の人とお話し中……あと十分くらい、待っててって」
ちょこちょこ寄って来たロリことΛの言。
窓際で手櫛を通すu-aに講義の視線を送る。
どーゆーこっちゃい。
「会う時間を作って欲しかったので、嘘を吐きました」
そこで正直になられたら糾弾し辛いんですけど。
「なら最初から、そう言えよ」
「すみません。恥ずかしかったので、つい」
「眉ひとつ動かさず並べる台詞じゃねぇな」
……フェリパ女史の一件以降、コイツは大体こんな感じだ。
好意と言うか、色目と言うか、そういうものを分かりやすく向けて来るようになった。
が。
「こちとら妻帯者だぞ。何度目だ、このくだり」
重婚罪は懲役二年。穴を掘っては埋めるだけの作業を延々繰り返させられる刑。
嫌過ぎる。想像しただけで気ぃ狂うわ。
「重婚や不倫などは私達姉妹に適応されませんよ。アンドロイドですから。合法です」
合法てか脱法。
倫理的には完全クロだろ。
「ところでリゼ達は何処だ」
まあ全員、完全索敵領域の内に居るため、所在は分かってるが。
「リゼ様はカフェテリアでブレイク中。ヒルデガルド様は一階で受付嬢をナンパ中。硝子様は父様の警護に就いておられます」
だよね。五十鈴以外、誰も仕事してねぇ。
曲がりなりにも新入社員なのに。いっそ清々しいわ。
「あいつ等、揃いも揃って社会人向いてなさ過ぎだ」
「けどルナくんも屋上でサボってたよねー」
6THの指摘に顔を背ける。
俺はいいんだよ、俺は。
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