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「……ツキヒコ? どうしたの?」

「ぴにっ」


 小首を傾げ、剣を引くヒルダ。

 奇声を発し、硬直する五十鈴。


「オタノシミのとこ悪いが、ちょいと、お前達に提案をさせて貰いたい」


 圧縮鞄から増血薬を取り、呷る。


「俺ァ、あと半年足らず……つまり大学を卒業た後、さる企業への就職が決まっててな」

「キミを雇う!? 大丈夫なのそこ、とても正気とは思えないんだけど!」


 黙らっしゃい。人のこと言えたクチか。

 リゼも「わかる」みたいな感じで深々と頷くんじゃありませんよ。


「……ま、就職っても特殊な雇用形態で……名目上は、南鳥羽カンパニー本社の第四警備部門長つう肩書きなんだが」

「僕でも知ってる超大手じゃん! 給料いくら!?」


 忘れた。確か手当抜きの基本給が、月に五百円だか五百万円だった筈。

 どうでもいいよ。金には困ってねぇし。


「鉛筆からロケット、探索者シーカー用ん装備品まで広う手掛けとぉ総合商社やな。中でも特に有名なんな、あんシンギュラリティ・ガールズばい。ガワも中身も商品化しゃれとらんばってん」


 遠いぞ五十鈴。解説するなら、もっと近くで喋れや。


「そのシンギュラ達の専属護衛が業務だ」


 尤も雇い主のナントカ博士曰く、四六時中張り付く必要は無いとか。

 武闘派のDランカーで知られた俺を看板に立てての示威効果が、主な狙いらしい。


 と言うか、そうした条件でもなければ応じないだろうとの談。

 恐らくu-aの入れ知恵。あのロボ子、やたら俺の生態に詳しいんだ。

 ちなみに最近は隔日で電話かけて来る。暇かよトップアイドル。


「で。部門長の権限として、椅子の数だけ好きな人材を雇う裁量を与えられてるワケだが」


 流石に大事の際は動かねばならん。そうなると俺一人じゃ手が足りん場面も出る。

 差し当たりリゼは確定。企業に帰属すれば鬱陶しい勧誘も減るだろうし。


 ──それに並ぶ形で、と考えた次第。


「折角だ。集めた面子を使って探索者シーカーチームを結成することにした」


 ここで俺のにアタリが付いたのか、ヒルダと五十鈴が目を見開く。


「一緒のチームで行動を共にすれば、そのうち発作も起こらなくなるだろ」

「アレルギー持ちの子供に「食べたら治る」とか宣う老害と発想が同じよね」


 リゼちー辛辣。さては気乗りしてないな。重々承知の上だけれども。

 まあ、ほら。いざとなったら解散すれば済む話だし、ひとつ御容赦をば。


「……あー。つまり、だ」


 なんとなくバツが悪くなり、少し言い淀む。

 後でリゼには、何か礼と詫びをせねばな。


 ともあれ。咳払いを挟み、本題を開く。


「俺達四人で、組まねぇか?」

「ひえ」


 一歩、五十鈴に近付く。


「世界各地の未踏破ダンジョンを、面白おかしく暴れ回ろうや」


 そして。


「折を見て、殺し合おうぜ」

「──きゅう」


 変な声を上げた五十鈴が、泡吹いてブッ倒れた。

 だいぶ先は長そうだ。





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