667・閑話39






 西暦二〇六八年、四月四日。


 半年に一度のDランキング更新が執り行われた、この日。

 日本探索者シーカー界。延いては世界に波紋を投じる事件が三つ、重なった。






 ──沈黙部隊筆頭戦力、五十鈴硝子の脱退。


 難度九未踏破ダンジョン単独攻略記録を持つ五人──否、の異端が一人。

 極点の剣魔『終剣』ハガネを母に持つサラブレッドであり、そんな母をも凌ぐ探索者シーカー

 地表より火星を撃ち抜いた、などと眉唾物の逸話すら飛び交う、当代きっての銃手ガンナー


 かの女傑が五爪棺ごそうかんのエンブレムを棄てるという一大事は、すぐさま方々を駆け巡った。

 併せ、在野に出た彼女を麾下に引き入れるべく、様々な勢力が我先にと動いた。


 が。如何なる条件を掲げようと、返答は常に、須臾の逡巡も挟まぬ拒絶。


 そして。その理由こそが、第二の事件に他ならない。






 ──雷鳴の如く鳴り渡った、とある新興探索者シーカーチームの結成発表。


 正式登録名『南鳥羽カンパニー本社・第四警備部門』。

 関係者各位からの通称を『シキ組』。


 構成員は述べ四名。一個パーティの適性人数にも届かぬ、規模だけ見れば零細も零細。

 にも拘らず、大きく取り沙汰されるに至った経緯は、リストに連ねられた名前ゆえ。


 ──『魔人』藤堂月彦。今期同率四位。

 ──『死神』榊原リゼ。今期

 ──『怪物』ヒルデガルド・アインホルン。今期同率四位。


 最後に──『リボルバー・グラス』五十鈴硝子。今期三位。


 四人全員が現役一桁シングルランカーにして、

 空前絶後。類似例とも呼べる『六趣會』以上の、超少数精鋭。


 重ねて、歴代三人目となるランキング一位の登場、EU圏内最強最悪の探索者シーカーの移籍など、どこを取っても話題性に事欠かぬ一党。

 そこへ五十鈴硝子の名まで合わさり、世界の注目は否応無く集まった。

 彼等を抱えた南鳥羽カンパニーの株価が、明らかな高騰を示したほどに。






 だが──第三の事件は、そんな騒動すら、有耶無耶の内に霞ませた。






 四月四日、二十二時四十八分。

 難度十ダンジョン、那須殺生石異界に於いて、カタストロフ発生が観測されたのだ。






 ──ステージⅢという、前代未聞の進行度で。





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