665
「っち!」
舌打ち混じり、三度石剣を振るうヒルダ。
果心の手で研ぎ直され、本来の斬れ味を取り戻した刃。
バターの如く両断される、三発の弾丸。
途端、粉々に砕け散った。
無数の破片が、至近距離から襲い掛かる。
「つまらない小細工を!」
けれど一片たりともヒルダには届かず。
八重の『
──時間差で訪れた四発目の弾丸が、その悉くを貫き、ヒルダの左肩を抉る。
「づぐっ!? こん、のっ……!!」
アホめ。油断し過ぎだ。
相手のレベルくらい一瞥で測れよ。
「ナチュラルな見下し癖がアイツの欠点だよな」
「大方そんなもんでしょ、生まれついてのバケモノなんて」
何故こっちを見ながら言うんだリゼ。
「お」
晴れ始めた白煙を掻っ切るように飛び出す五十鈴。
ガンナーが自ら距離を詰めるとか、中々にロックだな。
「いいね」
接近と併せての、刹那にも満たぬリロード。
惚れ惚れする手捌き。
破れたジャケット以外、目立った外傷は見当たらない。
今の『破界』モドキと掃射を受けて尚、ノーダメージか。
「ま、そのくらい造作もねぇだろ」
片方のリボルバーを一瞬だけ手放し、残る片方を腰だめに構え、ファニングショット。
ほぼ同時の、それぞれ異なる人体急所を狙った五連射。
明らかに構造の上限を超えた弾速。十中八九、何かしらのスキルによる加速。
道理で俺に弾を当てられたワケだ。
「……ぅるるるるる」
ちくしょうめ。身体が疼く。
五十鈴もヒルダも、難度九ダンジョンボスを遥かに凌ぐ手練れ。
全人類ひっくるめて、間違い無く五指に食い込む実力者。
そいつ等が、俺の目と鼻の先で火蓋を切らんとしている。
アがるじゃねぇかよ。
「かろろろろろろ」
樹鉄刀を欠いた俺では、あの二人のどちらにも勝てまい。
故にこそ一層、挑む価値が増す。
己を凌ぐ強者こそ、牙を剥くに相応しい。
額に箭は立つとも背に箭は立たず。
それで死ぬなら本望だ。
「やめとくべきだと思うけど。アンタが出て行ったら、また博多の女が発作起こすわよ」
感極まり、踏み込む間際。半ば煮えた頭にリゼの諫言が染み通る。
そうだ。そうだった。意味分かんねぇ。なんでやねん。
くそったれ。この期に及んで指咥えるだけとか、生殺しどころの騒ぎじゃねーぞオイ。
「ああああああああァァァァァァァァッッ!!」
喚き、叫び、喉を掻き毟る。
ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな。俺が一体何をした。
正直に言えば悪行の心当たりとか数え切れんが、ここで天罰覿面とか、あんまりだろ。
今後はチョッピリ悔い改めることを善処する方向にて検討を進めて行く所存でありますから、カミサマどうか許してちょうだい──
「──あ」
はたと思い付く。ひとつの妙案に。
やっぱ許さなくて結構だわカミサマ。自分の道は自分で切り拓かないとな。
「騒いだり落ち着いたり忙しいわね」
「我、光明に至れり。耳を貸したまえリゼちー」
かくかくしかじか。
「…………それ本気?」
「勿論。我ながらナイスアイデア」
ただし、この策を実行へと移すには、神ならぬリゼの許しが必要不可欠。
駄目と首を横に振られれば、諦めざるを得ない。
「……はぁっ」
暫しの閉口を挟み、俺の肩を小突くリゼ。
澄んだ赤い瞳が、ジト目で此方を見遣る。
「好きにしなさいよ」
「マジか! 言ってみるもんだな! サンキューリゼ、愛してる!」
「知ってる」
そうと決まれば即断即決即実行。
踏み込み、躍り出し、五十鈴とヒルダの間へと割って入る。
「鉄血──『深度・弐』──」
静脈を伝う青光。
切っ尖と銃弾を受け止め、ごっそり失った血に吐き気を覚えつつも、声を紡ぐ。
「双方止まれ。で、俺の話を聞け」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます