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 膨大なエネルギーをコンマ一秒足らずで放出し、射線上の全てを滅ぼす光熱波。

 分厚い装甲板など濡れた和紙も等しく貫き、堅固な地盤に長大な横穴を穿つ。


 まさしく『破界』の鏡写し。大方『アリィス・トラオム』で再現したのだろう。

 陽炎と混ざり合った白煙が晴れるのも待たず俺の背後へ移り、抱き着いて来るヒルダ。

 薄っぺらいくせアホほど硬い黒鎧の感触。そこはかとなく損な気分。


「お前の方こそ唐突にキレやがったな。学歴社会に嫌気でも差したか」

「だって赦し難いよ。友達キミの期待を無碍にするなんて。骨も残さず死ねばいい」


 耳元での低い囁き。首筋に這う舌。

 背中越し、俺の頬へ口付けた後、天地逆さに宙を舞う。


 ──次いで。幾許かの暇を挟み、赤とも黒ともつかぬを創り始める。


「おー」


 よもや『破界』に留まらず、扱いが至難なリゼの呪詛斬撃まで。

 が、真似られた当の本人は微妙な表情。


「『処除懐帯』にしては随分と粗いわね」

「となると俺がやった『盗演児戯』の方だな」


 オリジナルを強引になぞった模倣の再現。喩えるなら三次創作みたいなノリか。


 けれど、そう馬鹿にできたものでもない。荒っぽくも威力は折り紙付きだ。

 射程距離や攻撃範囲は兎も角、純粋な熱量の密度であれば『破界』を凌ぐ。


 ただ、やはりと言うべきか。


「直に見た技ならイメージも容易いとは言え、流石に『宙絶』は無理筋らしい」


 アレは、ただ呪詛と空間歪曲を『飛斬』へと混ぜ込んだだけの代物に非ず。

 まあ、その二つを両立させるのみであっても相当ホネなんだが。


 ──『ナスカの絵描き』による空間認識を用いた各種情報の数値化、及び正確な計算。

 ──『幽体化アストラル』による、半歩の踏み外しが自滅を招く呪詛への憑依と操作。

 ──『消穢』による精神汚染への抵抗。威力を殺さず、心を毒さずの絶妙な塩梅が肝要。


 ──何より、膨大なタスクを呼吸同然に並列で熟す、リゼ自身の能力。


 理不尽めいた才覚を以て持ち得るスキルを最大限に総動員させた、凡ゆる意味で我が相棒だけに許された絶技こそ『宙絶』。

 如何にヒルダであっても、断片的なトレースすら難しかろう。


 そしてヒルダで駄目なら──この世の誰にも不可能だ。


「ぱらららららららら」


 手慰みにか、八挺のレールガンを『空想イマジナリー力学ストレングス』で展開させ、一斉掃射。

 秒間百発以上の大口径弾が音の五倍速で八方向よりバラ撒かれ、白煙を裂く。


「……よし、でーきたっ」


 虚空に脈打つ、乾いた血の塊にも似た赤黒い刃。

 そいつを素手で掴むと同時、支えを失い、床へ落ちるレールガン。


「『二重ツヴァイ』『三重ドライ』『四重フィーア』『五重フュンフ』『六重ゼクス』『七重ズィーベン』『八重アハト』」


 スキルの仕様上、本来能わぬ『空想イマジナリー力学ストレングス』の

 想像を現実へと持ち出す『アリィス・トラオム』の恩恵で成された非合理が瞬く間、ヒルダの纏うエネルギー量を跳ね上げる。


「もう暫く近寄らないでね。こいつを近くで撃ちたくないから」

「……ねえ月彦。あの状態でアレ投げたら、半分くらい吹き飛ぶんじゃない? 日本」


 探索者シーカーの軍属が義務付けられていないEU加盟国にでも引っ越すか。

 ベルギーとかどうよ。チョコレートの国だぞ。


「ツキヒコを泣かせた罰だ。生まれ育った祖国と共に、消えて無くなれ」

「泣いてはいねぇ。たぶん泣いたこと自体ねぇ」


 投擲。放たれる国崩しの暴威。

 けれど。それが役目を果たす瞬間は、訪れなかった。


「ほー」


 火薬の炸裂音とは異なる、奇妙な銃声。

 透けた菱形の弾頭が、悲鳴じみた響きで風を切る兇刃と衝突し──互いに消滅した。





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