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指を鳴らす。
肉塊と化した二人分の亡骸を、元の形に差し替える。
次いで──嘆息。
「脆い」
雑な過去改変を受け、肉体こそ戻れど精神は千切れたまま倒れる、名も知らん男共。
手練れと思ったが、見込み違いか。
「……いや。寧ろ妥当な評価だったな」
今やスキルを使わずとも、難度九ダンジョンボスまでなら正面きって縊れる。
にも拘らず『豪血』など引っ張り出せば、このレベルの達人すら赤子同然に霞む道理。
「つまんね」
俺は格ゲー派だと何度言わせる気だ。
延々と雑魚を蹴散らすばかりの無双ゲーとか、却ってストレス溜まるだけだっつーの。
「何が対カタストロフ戦力。とんだ肩透かし」
…………。
まあ、出来ないことをやれと強いるのは酷か。
勝手に過度な期待を抱いた俺が悪い。ごめんなソーリー。
──なので。大本命様に、この空虚の穴埋めを務めて頂こう。
「ハハッハァ」
爆撃に等しい『水月』の射線に立ちながら、平然と手遊びを続ける五十鈴。
避けてはいない。奴の周りだけ綺麗に逸れた。否、逸らされた。
だがしかし、銃撃で応じたワケでもない。
「エクセレント」
実に愉快な話。
あの女。己へ迫る超音速の飛沫を、ただのガンスピンで残らず払い除けたのだ。
「燃えるね」
挨拶代わりの児戯とは言え、難度八のダンジョンボスを仕留める程度の威力は持ち合わせていた一投。
そいつを、まさか大道芸で受け切るとは。
「期待感が高まっちまうよォッ」
掌の傷をアラクネの粘糸で塞ぎ、長手袋を嵌め直す。
身を深く沈ませるように踏み込み、跳躍。
一キロ近く離れていた五十鈴との間合いを詰め、真横へと着地。
「ハローハロー。オヒサシブリだな、五十鈴ちゃァん?」
常人どころか超人の目にも留まらぬ緩急。
だが五十鈴は眼帯に塞がれていない左目でピタリと俺を捉え、瞬きもせず機動を追う。
しかも、喉笛に銃口のオマケ付き。
株価が天井ブチ抜きそうな勢い。素晴らしいサービス精神。
「──アッハハハハハハハハハハハハッ!!」
今のところ完璧な強者ムーブ。月彦さん感無量。
更に更に。至近距離での観察を経て、ある可能性へと至ってしまう。
「オイオイオイオイオイオイオイオイ」
ヤバいヤバい、マジヤバの激ヤバ。
もしかして。もしかしたら。もしかすると。
──コイツ、母親より強くね?
「クリスマスには気が早過ぎるぜ、サンタさん」
ところで何故、このシチュエーションに在って五十鈴は俺を撃たないんだ。
撃てよ。ピストルは向けたら終いじゃねぇぞ。
「焦らすなよ、なぁ。意地悪やめろって」
リボルバーごと手首を掴む。
硬く冷たい、血と硝煙の匂いが染みた指先。
「ミ゜ッ」
「あァ?」
発音の仕方が全く分からん、妙な声。
直後。唐突に、五十鈴が膝から崩れ落ちた。
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