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 待ち構えること暫し。

 低い振動と併せ、大扉が開く。


「ハハッハァ。お出ましだ」


 他の隊員達とは異なる改造が施されたジャケット。

 首元にて輝く襟章、五爪で掴まれた棺のエンブレムは、何れも隊長位を示す聖銀細工。


「なんだこりゃあ、ボロボロじゃねぇか。深層のクリーチャーを解き放ったって、こうはならん筈だぞ」

「ゆーて利根サン、なっとるやろがい」


 未だ遠いが、強化状態の聴力ならば耳元で囁かれたも同然の呟き。


 怪訝そうに半壊状態の試験場を眇める大男と、その横に立つ狐目のチャラついた優男。

 双方共に武器を帯びていないが、代わりに同一規格のレッグポーチを身に着けてる。

 内部空間が広い。圧縮鞄。あの中か。


「強いな」


 少なくとも、先頃に蹴散らしたクソ雑魚ナメクジ連中よりは明らかに。


 が。それでも二人合わせて漸くウェイと伍する程度。

 残念ながら、俺の食指を動かすには不十分。


 ──すぐ傍に極上の獲物が控えているとあれば、尚更。


「あら博多の女。そうそう、そう言えば沈黙部隊のメンバーだったわね」

「なんだリゼ、知ってたのか」


 コツコツと小気味良く靴音を鳴らし、緩やかに歩み寄る博多の女、もとい五十鈴。


 歩調と合わせたリズムでの流麗なガンプレイ。

 山猫の大将も帽子を脱ぐだろう、天稟と熟練を感じさせる華やかな大道芸。


「第五隊長五十鈴いすず硝子がらす。本名雪代ゆきしろ硝子しょうこ。三十一歳独身、血液型タイプ・ブルー、Dランキング最高記録四位。六趣會『畜生道ハガネ』と『人間道キョウ』を両親に持つ探索者シーカー界のサラブレッド。通称『最強の血統種』」

「詳しいなオイ。ファンか」

「ぜーんぜん。ウィキを網膜投影して読み上げたのよ」


 動きを緩めず、寧ろ手遊びに組み込む形で左手側のシリンダーを振り出す五十鈴。

 五発の実包はそのまま、俺に向けて撃ったと思しき一発だけ器用に排莢。

 続け様、袖口から新しい弾を滑らせ、見得を切るかの如し大仰な仕草で空のチャンバーに掬い取り、スイングイン。


 やるな。上等な入場パフォーマンスだぜ、センセー。


「二十一世紀も後半に差し掛かった御時世で、わざわざ骨董品リボルバーを使うだけはある」


 空間圧縮技術により、金さえかければ拳銃用の弾倉にも数百発が装填可能な現代。

 加えて五十鈴は、国が弾薬費を賄ってくれる身分。ばかすか撃てども懐は痛まない。


 然らば五発六発が精々なアンティークを扱う意味など、個人的嗜好以外に無い道理。

 要は単なる格好付け。ガンプレイの練度を見るに、概ね的を射てるだろう。


 即ち──警察や自衛隊など比ではないレベルで強さが求められる組織へ属しながらも、ポーズが許されるだけの実力を持つという証明。


 …………。

 あー駄目だ。辛抱堪らん。


「強くて小技が巧い奴ァ、大技もキレると相場が決まってる」


 女隷の長手袋を外し、拳を握り、爪を突き立てる。


「思い出すぜ。寝食も忘れ、野球に熱中した少年時代を」

「絶対嘘。アンタに団体競技とか無理」

「なんなら会話のキャッチボールも覚束ないよね。話しかけられても無視したりするし」


 嘘だけども。無理だけども。気分次第で無視するけども。野球のルール知らんけども。

 だがしかし、お前達にコミュニケーション云々を論われるのは納得行かんぞ。


 ……まあいい。ひとまず今は、どうでもいい。

 切り替えて、ホスト方への挨拶と洒落込もう。


「本日は、お日柄も良く」


 青く酸化する血を掌に溜め、振りかぶり。


「『水月』」


 音置き去る飛沫と成し、放った。





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