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 …………。


「──あァ?」


 ほんの僅か。遠いが、強化された聴覚に引っ掛かる。


 手首に伝う衝撃。くるくると宙を舞うヒルコ。

 視線を落とせば、親指に浮かぶ薄い焦げ付きと痣。

 弾痕。撃たれた。


「『深度・壱』とは言え『豪血』状態の俺に鉛玉を当てるか」

「ヒルコ没収。今日のところは私が預かっておくから」

「あ、リゼてめぇ何しやがる」


 意識、呼吸、律動の隙間を的確に突いた、百の針穴を穿つが如し一発。

 着弾と同時に反射で腕を引いていなければ、骨に罅くらい入ったかも知れん。


「チッ……ちゃんと返せよな」

「ちなみにツキヒコ。もし僕が取り上げてたら?」

「叩き殺してでも奪い返したに決まってんだろ、当たり前のこと聞くなよ」

「差別だー! 横暴人事ー! 組合を呼べー!」


 何にせよ相当な銃、相当な弾、相当な腕前。

 興味を唆られ、弾道を辿り、発射点を遡る。


「……くくっ」


 まあ、そんな手間暇を挟まずとも、この地下空間含む一帯は元より完全索敵領域の中だが、そこは様式美。


 程なく、硝煙燻る銃口を捉える。

 勿論のこと、それを繰る射手も。


「いいね」


 壁際へと立つ俺達の対辺側に据えられた、装甲板と同じ材質の馬鹿でかい扉。

 そいつを隔てた長い通路の向こうに伸びるエレベーターでの、人影。


「三人。待ちかねたゲストの参上ってワケだ」


 乗っているのはシンゲンとタメを張れるような大男アンド線が細い中背の男という、対照的な組み合わせ。


 そして──見知った顔。


「そうか。そうかそうかそうかそうか」


 異彩放つ金の瞳宿す右目を厨二ファッション全開な黒百合の眼帯で覆った、赤髪の女。

 その両手には、銀のバレルを青薔薇の彫刻で飾る、二丁の大型リボルバー拳銃。


「お前か。じゃあ納得だ」


 鎖された高速エレベーター内で、分厚い装甲板含む何枚もの壁を挟んだ正確な射撃。

 斯様に精微かつ強引な荒業も、奴なら朝飯前だろう。


「ハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!」

「わあビックリ、唐突な高笑い。どう見るべきか、教えてリゼ博士」

「無駄に広範囲な知覚で手頃な標的を見付けたみたいね。差し当たり、日本列島消滅の危機は先延ばしになったと考えて構わないわよ」

「単純だなぁ」


 リゼとヒルダが後ろで何やら失礼極まる内容を話してるが、糾弾は後回しだ。


 ──さあ来い。すぐ来い。今来い。


 こちとら強者を待ちに待ち侘びて、もう頭の中ぐっちゃぐちゃなんだよ。


 なぁ、おい。


「五十鈴ゥ……!!」





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