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ところで。
「遅れてる面子は一体いつ到着予定なんだァ!?」
少しずつ直って行く装甲板を尻目、手近なスピーカーに叫ぶ。
「特に残りの三隊長! そいつ等が沈黙部隊のトップスリーだって聞いたぞ! 勿体ぶってねぇで、さっさと出しやがれ!」
幾らか待つ。返答は無い。
無視キングとは良い度胸だ。
「月彦。それ壊れてるわよ」
「しかも今のキミの一撃の所為でね」
マジか、くそったれ。
苛立ち任せに足元を蹴り付ける。直径百メートルばかりが爆ぜた。
なんて脆い。脆い脆い脆い脆い脆い脆い脆い脆い脆い脆い脆い脆い脆い脆い──脆い。
「ぅるるるるるるるるるるるるる」
巫山戯るなよゴミ屑共が。俺の期待を返せ。
よくもまあ、あの程度で日本最精鋭などと謳えたものだ。こちとら六趣會を基準に構えてて、何気にワクワクしてたんだぞ。
不当表示、厚顔無恥も甚だしい。図々しさなら日本一どころか世界一も狙えるだろう。
ああ。度し難い。
「かろろろろろ」
「おっと、これはヤバそうな予感」
「『ぅるる』までならボチボチ大丈夫だけど『かろろ』は少し不味いわね。放っておいたら関東一円滅亡まで……いいとこ三分?」
「わあ大変。よし、僕に任せたまえ! ネゴシエーション能力には自信あるよ!」
「両手の指でも数え足りないパーティを追い出されといて、片腹痛い自己評価ね」
背後に歩み寄る足音。
力の塊と呼ぶべき、大きな気配。
「やめといた方が身のためだと思うけど」
「大丈夫! 僕、天才だから! ねえツキヒコ、欲求不満なら三人でホテルにでも──」
四百とんで八十、振り返りざまに蹴りを放つ。
一対の石剣で悉く捌かれるも、打ち終わりの一発にて防御ごと押し退ける。
「ちょわっ!? 危ないなぁ、もう!」
「サイテー。今ので十倍は悪化したわよ」
あああああ。そうだよ、居るじゃねぇかよ。とびきり強いのが。
「暫く会わねぇうち、また腕を上げたなァ」
完全索敵領域を形成する五感と直感が、黒鎧で覆われたヒルダの総身を検める。
両腕、右脚、幾つかの臓器、左眼。
前より人造パーツが増えてる。背中の皮膚も、また新しく張り替えた模様。
しかし不便は無さそうだ。偉大なり、文明の進歩。
「ヒルデガルド総サイボーグ化計画も近いか」
「テセウスの船は御免だよ」
ざっと見積もってハガネと同格以上。成長期も大概が過ぎる。
俺の与り知らぬ盤面にて、コイツもコイツで相当な修羅場を潜ったらしい。
いいね。ゾクゾクするぜ。
「お前が相手なら、漸くコイツも完成しそうだ」
再度『豪血』発動。
赤く灯った光が動脈を突き抜け、一瞬だけ女隷へと絡み付くも、剥がれ落ちる。
あと半歩、足りない。
この残り半歩が、矢鱈に遠い。
「……また剣も無しに僕と
石剣の刃同士を擦り合わせ、火花を撒き散らし、目を細めるヒルダ。
「キミの『双血』はアレを外部バッテリー代わりにして稼働時間を稼いでるんだろう? 一分そこらで僕を斃せるとでも?」
「心配するな。予備電池の用意くらいある」
女隷背面、カシマレイコの脊柱に埋め込んだヒルコを抜き取る。
臨月呪母の刃を削り出し、リゼに『呪胎告知』一回分の呪詛を篭めさせた細杭。
コイツを俺自身に突き立て、エネルギーを血管内に流し込めば万事解決よ。
「っ!? バカな真似やめなさい月彦、そんなことしたら──!!」
早急に血を抜かなければ呪毒で身体が腐敗するが、普通に『豪血』を使うよりは保つ。
どちらが得かなど、考えるにも及ばん。
「ハハッハァ」
レッツ・ビギン。
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