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朝。目覚めたら、リゼが馬乗り状態で俺を見下ろしてた。
「何やってんだ」
「ご飯」
成程。空腹か。
分かった分かった、すぐ用意する。五分待ちなさい。
「作ったから。冷める前に食べなさいよ」
………………………………。
……………………。
…………。
「は?」
ベーコンエッグ。
ワカメの味噌汁。
秋刀魚の塩焼き。
そして山盛りのキャベツ。
顔を洗い居間に赴くと、ごきげんな朝飯が俺を待ち受けていた。
どうやら冗談ではなかった模様。
「もしや不治の病でも見付かったのか? 死ぬのか? なあリゼ、お前死ぬのか?」
「そりゃいつかは死ぬでしょうけど、今のところ予定は無いわね」
腕輪型端末と同期させてあるリゼの体内ナノマシンにアクセス、簡易スキャン開始。
結果は至って健康。逆に怖い。背骨が冷たい。
「『【悲報】朝起きたら嫁が食事を作ってた』……凄まじい勢いで炎上してやがる」
「変な板にスレ立てたでしょ。ネット初心者が気安く掲示板なんか使うからよ。うっかり個人情報を晒したくなければ、やめといた方が身のためだと思うけど?」
それもそうだとスマホを背後の座布団に投げ捨てる。
然らば、いただきます。
「つーか料理の心得あったのな」
「母親に仕込まれたもの。死ぬほど面倒臭かったけど」
実に家庭的な味だ。卵とベーコンの焼き加減も完璧。味噌汁もダシが効いてて良き。
秋刀魚に至っては、見た目は普通の姿焼きなのに余さず骨を抜いてある手の込みよう。
「美味い。俺が作るより俺好みだ」
「そ」
なんと言うか、毎日食べるならこういう感じ、みたいなのが体現された調理。
箸が進む。秒で丼を空けて二杯目へと取り掛かる。
「思えば人の手料理自体、久し振りだ。物心つく頃には、ほぼ自力で生きてたしな」
「昔の女に作らせたりしてなかったの?」
「……覚えてねぇな。そも人数も顔も名前も」
サイテー、と気の無い調子で返された。
取り敢えず、もう一杯コメが欲しい。特盛で。
思わぬ馳走にありつき、平時よりも三割増で好調な朝。
身支度を整え、ボソボソと陰鬱な話し声の響く我が家を出る。
「連中、俺達が出掛ける素振りを見せると嬉しそうだよな」
「鬼の居ぬ間の、ってヤツでしょ」
欠伸混じり、亜空間ポケットを開くリゼ。
取り出したのは、つい一昨日に修理と改造が終わったマゼランチドリ。
刀身を持たない、ハンドルだけのナイフ。
「案の定、奇剣にされたわね。握りとか重心とかは、不気味なくらい前のままだけど」
「根幹に使われてる機構自体、元々果心の設計だ。弄り回されたところで大差ねぇだろ」
新たな銘を『
その斬れ味と性質は──まあ、すぐに分かる筈。
「そんじゃ、いつもの頼むわ」
「りょ」
何せ今日は、かの沈黙部隊との合同訓練。
試し切りの相手なんぞ、掃いて捨てるほど居るだろうさ。
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