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──貴方の時間を、一日下さい。
フェリパ女史から斯様な頼みを受けたのは、凡次郎との闘争を終えて直ぐのこと。
やたら甲斐甲斐しかったフォーマルハウトに見送られる形で魔界都庁を去った後、話があると切り出され、畏まった佇まいで請われた。
まあ取り立てて断る理由も無かったため、二つ返事にて承諾。
尚、リゼからも「付き合ってあげれば? どうせ暇でしょ」と高言を賜った次第。
……反論の余地こそ皆無だが、釈然としねぇ。軽く見られてるみたいで気に入らん。
俺だって忙しい時は忙しいんだぞ。平均して年三回くらいは。
で、だ。
「どこへ行きたい? 何をしたい?」
往来の中で立ち話も見栄えが悪いため、朝食がてら適当な店へ場を移し、サンドイッチ片手に問う。
なにぶんメールで示されるまま足を運んだものの、肝心な用件は聞いてなかったし。
まあ、そんなもん大体いつものオハナシだけど。現地確認が人生のモットー。
行き当たりばったり、と読み換えても可。
「先日はアンタのお陰で、そりゃあ楽しく過ごせた。その礼と言っちゃアレだが、街頭演説でも宗教活動でもテロリズムでも全面戦争でも、なんだって構わんぜ?」
ただし国家規模の破壊工作には、少々ばかり手間を貰う。
実行自体は『落月』と『月輪』の連打でシンプルに片付くが、樹鉄刀の内在エネルギーを取り込めない現状では、流石に何度か血を補充せねばリソースが足りん。
「例えば米国か中国あたりを滅ぼす気なら、スケジュールに余裕を持って三時間くれ」
「ふふっ、物騒ですね。そんなこと頼みませんよ」
テーブルを挟んだ対面でミルクティーを傾け、苦笑うフェリパ女史。
成程。然らば、如何なプランを御所望で。
「……んー」
顎先に指を添え、暫し思案顔。
ライブ中すら鉄面皮を貫くu-aと酷似した容姿が表情豊かに移り変わる姿は、だいぶ違和感凄い。
よく見りゃ意外に綺麗系より可愛い系の造形なのな。
やがて胸の前で両手を叩くと、フェリパ女史は空間投影ディスプレイを展開させた。
「?」
虚空に映り込んだのは、幾つかの画像と動画。
しかし、それを俺に見せた意図が分からず、疑問符で応じる。
「この近くに水族館があるんです。行ってみませんか?」
…………。
「あァ?」
想像の斜め上を行く提案。
素人質問で申し訳ありませんけれど、そいつは一体、何が目的なのでしょうか。
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