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「貴様を殺す」


 童女から一転、三十歳前後の男の姿で出刃包丁を此方に突き付ける果心。


 理知こそ取り戻せど、未だ怒り冷めやらぬ模様。

 身体能力的に秀でた年齢層を選んだあたり、殺意に溢れてるのは火を見るより明らか。

 参る。どう宥めたもんかね。


 と言うか。


「今回ばかりは俺の所為じゃねぇぞ。普通に使ってたら壊れたんだよ」

「毎回そう宣うではないか貴様は! 普通に使って、こんな壊れ方して堪るか! いっぺん病院で脳味噌でも診て貰え、このド腐れDV野郎!!」


 心外な。


「何度殺した!? これで何度、拙の子を殺した!」


 さあ忘れた。月彦さん過去は振り返らない主義なもんで。


「大凡の見当はつく! 繊竹か龍顎で、片方に過度な負荷を与え続けたのだろう!?」


 ドンピシャ。喚き散らす間も検査は進めてたのか、流石一流。

 致命的なレベルで人格面に問題が無ければ完璧なのに。


「それによって陰陽の均衡が崩れ、龍脈回路のエネルギー循環を著しく乱し、果ては基盤の太極八卦図まで滅茶苦茶だ! 前に壊された時より遥かに改良したのに!」


 つまり構造上の欠陥か。

 戦闘中、左右のダメージ比率を調整しろとか、だいぶ無理のある仕様だと思う。


 ……ただ、あの時は番式の片割れをリゼに渡してて物理的な距離が離れてたのも、改めて考えてみれば大きな要因っぽい。

 アイツの居た階段部は空間位相がズレた場所だし、そこら辺も手伝う形で半欠け同士の繋がり自体が弱くなってたんだろうな。


 兎にも角にも、壊れちまったもんは仕方あるまい。


「次、頑張れ」

「きええええええええええええええッッ!!」


 投げるな投げるな。

 奇声上げながら物を投げるなっちゅーに。






「ねー終わったー? お腹空いたんだけどー」


 大量の駄菓子を抱え、工房内に顔を覗かせたリゼの催促。

 しかし生憎とアームロック食らってて、文字通り手が離せん。


「折れろ、折れろ、折れろ、折れろ! くそ、関節を極めてるのに何故折れない!?」

「シンプルに力が足りてねぇ」


 サブミッションは魔法に非ず。梃子の原理などを利用して効率的に力を伝えたり、抑え込んだりする技術に過ぎん。

 膂力や強度に極端な差が開いている場合、例え完璧に極めたとしても効果は薄い道理。


「そろそろ気は済んだか? お前には世話になってる、出来れば手荒な真似は避けたい」

「…………チッ!」


 舌打ち、からの解放。

 腹に据えかねてるのは明らかなれど、差し当たり頭の血は下りた様子。

 結構結構。


「そんじゃ本題。単刀直入に聞くが、直すのにどれだけ掛かりそうだ?」

「……相当ホネだぞ。何を相手にしたか知らんが、あまりに傷が深過ぎる。ついでに、ここ暫くは他の依頼も立て込んでいてすこぶる忙しい」


 昨今の探索者シーカー業界に於いてトレンドを掻っ攫ってる『十三の牙』共々、その半数近くの製作者として大きく名前が売れたもんな。


 となると一ヶ月、或いは二ヶ月って塩梅か。

 だいぶ長い。俺は我慢弱いのでありんす。


 しかし、まあ、やむを得んか──


「ざっくり。ああ、前に預かった大鎌も概ねそのくらいだな」


 ………………………………。

 ……………………。

 …………。


「ぱーどぅん?」


 今、一体なんて仰られましたのかね、コイツ。





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