640
「あー」
嫌だなー。行きたくないなー。
歯医者を渋る子供とか、こんな気分なんだろうなー。なったこと無いけどなー、虫歯。
「なあリゼ。半分だけでも健在なら実質ノーダメで通ると思うか?」
「ばかなの?」
その時々やる、ひらがなっぽい口調での罵倒マジやめろ。
ホント地味に傷付く。
拾い集めた欠片を丁寧に並べた、だいぶ悲惨な有様のガラクタ。
中破状態で無理矢理ヒルコを使った反動により、原形さえ失くした樹鉄刀の半分。
どうやら嘗ての臨月呪母と同様、基盤部分がブッ壊れたらしく、どんなにエネルギーを与えても再生の兆しすら窺えぬ有様。
色々試したが、自力での修理は不可能と断念。
八方塞がり、お手上げ侍。
「『ウルドの愛人』使えば?」
「馬鹿野郎この野郎。こいつは斬ヶ嶺鳳慈、いや凹田凡次郎との戦いで受けた霊験あらたかな傷なんだぞ」
例えば野球少年がメジャーリーガーから貰ったグローブを易々と手放すかって話よ。
差し替えるなんて、とんでもない。
……しかし、そうなると、だ。
「じゃあ早いとこ、あの頭おかしいソードクリエイターの所に持ってけばいいでしょ」
「ぐぬぬ……やっぱ、そうする他ねぇか……」
盛大に項垂れつつ、樹鉄刀を絹布で包む。
いたく憂鬱だ。発狂した果心の顔が、既に脳裏へとハッキリ浮かんでいる。
「第一声は絶叫だな……ぎゃーとか、わーとか」
そんなこんなで、いざ函館。
「──わぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!?」
何日も火が入ったままだろう、赤々と燃え盛る炉。
サウナじみた高温の地下工房に、ガラスくらいなら割れそうな金切り声が轟く。
てか実際、爆ぜた。床に転がったフラスコとかが、パリンパリンと盛大に。
ちょっと面白い。
「ああああああああああああ!! ああ、ああああ、あああああああああああッッ!!」
「叫びながら首を絞めに来るんじゃねぇ」
まあ今日の果心は齢一桁ほどの幼子に扮していたため、手が届いてないけど。
代わりに物凄い勢いで脛を蹴り付け始めた。正確無比な十六連射。名人も脱帽。
「っ、っ、うわあああああああああん! ふえぇ、えぐっ、ああああああああああ!!」
かと思えば、今度は蹲って号泣。情緒不安定。
ぶっちゃけコイツ、診断受けたら何かしらの病名が付きそうだよな。
「フシャアァァ!」
無事な方の半欠け、壊れた方の半欠け。
その両方を俺から毟り取り、まるで仔を守る母猫が如く威嚇する果心。
「そんな怒るなよ……ちゃんと謝っただろ、ごめんなソーリー」
「シャァァァァ!!」
一層と髪を逆立て、手当たり次第に物を投げて来た。
何がいけなかったんだ。
「最早、人と言うより祟り神とかそういう域だな……」
「がるるるるるる! ぐるるるるるる!」
「言葉まで失くしたか」
ひとまず落ち着くのを待とう。このままじゃ話も出来ん。
鎮まりたまえ、鎮まりたまえ。
ちなみにリゼは飛び火を厭い、上の駄菓子屋で水飴を舐めてる。
薄情者め。逆の立場なら、きっと俺もそうするだろうことは置いといて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます