628・Rize






「フェスティバルね」


 延々と続く階下を眺めながら、なんとはなし呟く。


 座り込んだ石段越しに伝わる振動、肌を刺す炸裂音。

 直接の被害こそ、この場所までは届かないけれど……ありありと想像出来る。


 見下ろす彼方の終着点。魔界都庁七十階層で繰り広げられる、馬鹿げた争いが。


「にしても、よく戦えるわよ。あそこマイナス百度以下まで冷え込んでたんですけど」


 私の腕輪型端末に同期させた月彦の体内ナノマシンから、遠隔でデータを吸い出す。

 アイツを解析するには処理速度が遅過ぎて飛び飛びだけど、バイタルくらいは拾える。


「相変わらず数値の桁がバグってるし」


 心拍数一万二千て何。レーシングカーのエンジン回転数?

 間違い無く『深度・弐』状態。人間やめ過ぎ。最初の頃は千ちょっとだったのに。


 ……うん、どっちにしろヘン。

 怪物どころか最早、生物かどうかも怪しいレベル。


「ま、別にいいけど。モンスターでも、サイボーグでも、エイリアンでも」

「ふふっ」


 不意に笑い声が耳朶を撫でた。

 振り返ると、口元へ手を添えた偽ロボ子の姿。


「なに? ジョークを飛ばした覚えは無いわよ」

「いえ」


 伏し目がちに首を振り、数拍ほど差し挟まれる沈黙。

 なんなの、と怪訝に思っていたら、偽ロボ子は再び口を開いた。


「──あの人のこと、本当に好きなんだなって」

「は?」


 もしかして頭悪いのかしら、コイツ。


「当たり前でしょ。あんなミラクルあたおか、よっぽど大好きでもなきゃ一緒に居られないわ。多少スペック高くたって願い下げ」

「ですか」


 じっと見つめられる。

 穏やかな、哀しげな、悲喜入り混じった表情と魂の色。

 ホントなんなの。


「言いたいことがあるなら、ハッキリ言いなさいよ」

「……いえ……ただ……」


 閉じた瞼を押さえて、また沈黙。

 涙を堪えてると気付いたのは、三度目に口を開く間際。


「貴女で、良かった、と」


 …………。

 ふーん。


「意外と嘘つきなのね。フェリパ・フェレス」


 正面に向き直って、そう告げる。

 返る言葉は、無かった。





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