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「『破界』」
〈たーまやー〉
凍土を呑むコンマ一秒足らずの極光が、巨星煌めく夜天へと打ち上がる。
冬の花火も悪くない。
「ハハッハァ」
あっさり『破界』を弾きやがった。
そんな真似が出来そうな人類、リシュリウか、シンゲンか、ハガネか、リゼか、ヒルダか、五十鈴くらいのもんだと思ってたが。
意外といっぱい居たわ。存外、大したことねーな『破界』。現状、最高出力でも北海道を地図から消すのが精々だし。
せめてオーストラリアを滅ぼせるくらいになりたい。いや、どうせならユーラシア。今のままじゃ名前負けも甚だしい。
「ま、大味な殲滅技は強キャラに効かないのがプロミス」
赤熱し、白煙噴き散らす籠手を番式へ移行。
剣身を背面へ隠す形で逆手に構え、
「『刃軋』」
交錯の刹那、斬って斬って斬って斬って斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る。
ほぼ同時に鳴り渡る、無数の太刀音。
うち有効打はゼロ。しかし収穫はあった。
〈巧いなジブン。跳ね返せへん〉
「何度も目の前で見りゃ、仕組みくらい猿でも分かる」
左腕と右腕を砕かれ、次いで『月輪』を翻され、トドメに今の『破界』。
然らば、封殺など造作も無し。
「もっぺん『破界』を撃ってやろうか? 次は逸らせねぇだろうけどな」
〈ひゃあ、堪忍したってや。ウチ、か弱いねんから〉
おどける鳳慈氏。
縦しんばアンタが弱者なら、この世に強者は居ねぇ。
彼にとって
再び『破界』を投じたところで確実に対処される。要らぬ隙を晒すのが関の山。
「──けど撃っちまうんだなァ、これが!」
番式を再度、核式に。
活性化したダンジョンの潤沢なエネルギーを貪り、収斂させる。
「さっきの五倍の熱量だ。地上で使えば長野県くらいなら木っ端微塵よ」
〈長野に何の恨みがあんねや〉
片手落ちの現状にて繰り出せる、ほぼ最大直。
全開の二割にも満たないが、辛うじて及第点。
胸躍る期待と共に、足場を吹き飛ばさず済む角度で以て、解き放つ。
「『破界』」
うっかり『鉄血』の発動を忘れてた。瞬く間、右腕が焼け焦げる。
奥歯に仕込んだ
「『番式・龍顎』──シィッ!」
併せて籠手を剣へ転じさせ、薙ぎ払う。
確実に攻撃圏内に居たにも拘らず、一切無傷の鳳慈氏が飛ばした、十数本の氷柱を。
「ハハッハァ! 案の定、防いだか!」
〈ホンマに
即座『豪血』に切り替え、間合いを詰め、接近戦にシフト。
左手右手順手逆手と移しつつ、六十四方から斬り掛かる。
「エクセレント! 反応が追い付くってだけで、この鉄壁! 骨や筋肉も交換すりゃ、もっと化け物じみて強くなるんじゃねェのか!?」
〈お断りや! 何もせんでも女の身体で難儀しとるっちゅーに、これ以上ウチのアイデンティティを損なって堪るかいな!〉
左様で。まあ無理強いはすまい。流儀は大事だ。
俺だって、たとえ死んでも『ウルドの愛人』は戦闘に持ち出さないだろうし。
ただ──敗けた時の言い訳にだけはしてくれるなよ。
「惜しむらくはフィジカル差」
〈っ〉
きっかり七千の斬撃を凌いだところで、鳳慈氏の右脇腹に致命的な空白が生じる。
そして当方、それを見逃すほど盆暗に非ず。
「アバラ粉砕コース。カルシウム信者なら、もしかすると一本くらいは残るかもなァ?」
中段蹴り。なんだかんだ俺は徒手の技術が最も高い。
吸い込まれるように命中。余さず衝撃を注ぎ、骨どころか内臓までグチャグチャに──
「──あァ?」
妙な手応え。或いは足応え。
喩えるならタイヤゴムの如し、硬くも弾力に富んだ感触。
〈これ普通の身体なら余裕で死んどるやろ。ウチやなかったら殺人事件やでジブン〉
蹴りを受けた鳳慈氏の胴が歪んでいた。
人体の構造上、あり得ないほど引き伸ばされた形に。
「バケモンかよ」
〈ごっついブーメランやわぁ〉
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