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「『番式・龍顎』」


 不完全な半欠け状態では、元々が一対となっている核式か番式にしか形態を移せない。

 本当は断式の気分だったんだが、やむを得ん。大剣ブン回すのは次の機会。


「『刃軋』──豪血」


 鋸刃を高く震わせ、一瞬だけ動脈に赤光を伝わせ、疾駆。


「しいぃ」


 ハガネの技術を奪い取り、己が体系へと組み合わせ、はや数日。

 錬磨は終えた。研鑽も積んだ。


 であれば、暴威の権化たる『破界』を凌いだ氷壁。

 こんなものバラす程度、造作も無い。


「ずん、ばら、りん」


 心臓が拍を打つまでに七太刀、斬撃を編む。

 剣尖を執った時点で、動脈の灯は既に消えた後。


 敢えて人間の力と技のみで以て、氷壁を斬り崩す。

 尤も、自動車くらいなら五車線先まで殴り飛ばせる膂力を只人の枠組みに含めて良いのかは、少々ばかり疑問だが。


「ハハッハァ」


 降り注ぐ氷塊を足場代わり、蹴り上がる。

 非強化状態での空中跳躍は、流石に難しい。

 まだ、な。


「さァて」


 フォーマルハウト。斬ヶ嶺鳳慈。

 果たして何方を先に狙うべきか。或いは両方同時の欲張りセットか。

 ああ、ああ。選ぶなら勿論、セットメニューに決まっている。


「呪血」


 動脈を黒く染め、俺への敵意を呪詛へと捻じ曲げる。


 彼等に『深度・壱』の『呪血』などロクに効きやしないであろうことは億も承知だが、生憎と投げ付ける手袋が品切れ中。

 要は挑発。パリピよろしくノってくれるよな、センセー方?


〈……クハッ〉


 氷の弾ける音に紛れ、さも愉快げな笑い声が、耳朶を突いた。


〈なんや。やるんか〉

〈コウモ熱烈ニ誘ワレテ、袖ニハ出来マイ〉


 吹き荒ぶ白い風。

 息も凍る極寒の小世界を、更なる冷気が奔り抜ける。


〈静止ヲ司リシ妾ノ御業、ソノ一端。拝謁ヲ許ス〉


 階層を埋め尽くす、魂すら呑むような絶対零度。


 否。明らかに、それ以上の──


〈──世界ヨ。凍レ〉





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