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 …………。

 参った。実に参った。


〈久し振りやなぁフォーマルハウト。何度目かに切り刻んで以来やん。髪切った?〉

〈切ッテオランワ、愚カ者メ。要ラヌ手ナド加エズトモ、既ニ妾ノ美貌ハ完璧ユエ〉

〈なんやコイツ〉


 悩ましい。

 上か下か左か右か──ああ。一体どこから斬り掛かろう。


「ぅるるるるる」


 リゼは早々にフェリパ女史を連れ、半安全地帯の階段部まで退いてくれた。

 自衛用に番式の片割れを渡してある。縦しんば有事に及ぼうとも、大丈夫だろう。


 つまり。憂うべき後顧は何も無い。

 心赴くまま、暴れ尽くせる。


「『核式・繊竹』」


 半欠けの双剣を籠手へと形態変化。

 右腕に纏い、凍土へ五爪を突き立てた。


 フォーマルハウトの恢復と併せ、本来の威容を取り戻した魔界都庁。

 活力に溢れた階層から、半径数十メートルが砂塵と帰すまでエネルギーを奪い取る。


 片方だけでは大した威力も出せんが、構うまい。

 ひとまず、ほんの腕試しだ。


「鉄血」


 静脈に奔る青い光帯。

 一瞬だけ女隷にも絡み付いたけれど、すぐ剥がれてしまった。


 まだ無理か。あと半歩てとこか。

 とは言え、焦って求めるようなものではない。

 辿り着けずに道半ばで朽ち果てるのも、それはそれで一興だし。


 今は、ただ──眼前の強者を屠るのみ。


「ハハッハァ」


 右腕を正面へと翳す。


 電力に換算すれば、東京二十三区全域を何日も賄って尚、余りあるような熱量。

 仮に『鉄血』を発動させていなかったら、骨まで炭化するほどの密度。


 そいつをコンマ一秒足らずの刹那で、解き放つ。


「『破界』」


 階層丸ごと灼き亡ぼし、射程内の生物は灰も残さず消え去る無音の極光。


 然れど。

 ああ、然れど。


「……ははっ。はははははっ!」


 防がれた。

 幕を引くかの如く聳え立った銀色の氷壁により、いとも容易く。


「いいね。最高」





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