617






〈あー、あー、ちゃうねんちゃうねん。ウチな、アレやねんアレ〉

「は?」


 身振り手振りを交えて伝える鳳慈氏。

 しかし生憎と情報量はゼロだ。寧ろ余計な混乱を招く分、マイナスかも知れん。


〈いやアレやねんて! もうヤバイねん、洒落にならんのやて! マジヤバ!〉

「月彦。こいつアタマ変」

「指差すな指差すな」


 陰口は陰で叩くもんだぞ。






「……もしかして、デリケートな問題だったりする?」


 所謂トランスジェンダー的な可能性に思い至ったのか、バツ悪そうに顔を歪めるリゼ。

 そういう気配りがスッと出てくるあたり、育ちの良さを隠しきれない奴だ。


〈せやなぁ、デリケートっちゅーかバリケードっちゅーか〉

「つまり違うのね」

〈まあ聞きぃや。ウチがこないけったいなボデーになったんは、聞くも涙、語るも涙な全七部作の壮大な物語が──〉


 長げぇ。


「習得したスキルの食い合わせが悪かったんだよ、この人」

〈早い! オチが早いわジブン! 人生を急ぎ過ぎやろ! ゆとり舐めんなや!〉


 別に舐めてはいないが、中身の無い長話に付き合うとか御免被る。


「彼は世にも珍しい八枠のスロット持ちで……尤も半分は、ポケットティッシュ程度の役にも立たんゴミで埋まってるんだが」

〈風評被害! 役立つわ! アホほど役立っとったわ!〉


 ほう。


 ──確定申告、免許更新などの各種手続きを寝てる間に済ませる『ジキル&ハイド』。

 ──半径五キロ圏内の全商店を対象に、食料品や生活雑貨が最安価で買える店舗や時間帯を示す『節約術・バイ式』。

 ──クレーム対応やレスバトルに至るまでを含んだあらゆる口論に際し、相手の精神を的確に抉る文言が思い浮かぶ『論破王』。

 ──コミュニケーション能力が向上する代わりに喋り方がエセ関西弁、英語の場合なら西海岸訛りとなる『ウエスト・ウインド』。


 斯様なラインナップの一体どこが有用か、是非ともセミナーを開いて教授願いたい。

 なんなら残りのうち情報公開されてた二種も、直接的な戦闘能力は皆無な代物だしな。


「ねえ。結局コイツなんで女なの?」

「七日に一度性別が反転する『チェンジリング』が発動してるタイミングで、よりにもよって『モナ・リザ』を習得しちまったんだ」


 選択式スキルペーパーでの獲得が可能な、不老効果を有する中では指折りにポピュラーだろうスキル。

 そのチカラは、習得者の身体を六時間周期でループさせるというもの。


 要は死ぬほどの大怪我をしようが、猛毒を頭から浴びようが、四半日だけ生き長らえれば元に戻る。鳳慈氏がソロでダンジョンを戦い抜けた理由のひとつだ。


 尚、肥満や持病なんかのマイナス要素も延々と輪廻する上、俺の『双血』のように肉体年齢が最盛期で固定されるワケでもないため、良いこと尽くめとは評し難い。

 元より若々しく健康な者が持って初めて意味を成す、そういう意味で人を選ぶスキル。


 ちなみに卵子は受精した時点で別個体と看做されループの対象外となるらしく、女性が習得しても普通に子供は産めるとか。


〈うせやろ。ウチの大失態、後世にモロバレなん?〉

「安心しろよ。一部のコアなファンしか知らねぇから」


 それを聞いて何が安心出来るんや、と睨まれた。

 返せる言葉も無い。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る