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〈あー、あー、ちゃうねんちゃうねん。ウチな、アレやねんアレ〉
「は?」
身振り手振りを交えて伝える鳳慈氏。
しかし生憎と情報量はゼロだ。寧ろ余計な混乱を招く分、マイナスかも知れん。
〈いやアレやねんて! もうヤバイねん、洒落にならんのやて! マジヤバ!〉
「月彦。こいつアタマ変」
「指差すな指差すな」
陰口は陰で叩くもんだぞ。
「……もしかして、デリケートな問題だったりする?」
所謂トランスジェンダー的な可能性に思い至ったのか、バツ悪そうに顔を歪めるリゼ。
そういう気配りがスッと出てくるあたり、育ちの良さを隠しきれない奴だ。
〈せやなぁ、デリケートっちゅーかバリケードっちゅーか〉
「つまり違うのね」
〈まあ聞きぃや。ウチがこないけったいなボデーになったんは、聞くも涙、語るも涙な全七部作の壮大な物語が──〉
長げぇ。
「習得したスキルの食い合わせが悪かったんだよ、この人」
〈早い! オチが早いわジブン! 人生を急ぎ過ぎやろ! ゆとり舐めんなや!〉
別に舐めてはいないが、中身の無い長話に付き合うとか御免被る。
「彼は世にも珍しい八枠のスロット持ちで……尤も半分は、ポケットティッシュ程度の役にも立たんゴミで埋まってるんだが」
〈風評被害! 役立つわ! アホほど役立っとったわ!〉
ほう。
──確定申告、免許更新などの各種手続きを寝てる間に済ませる『ジキル&ハイド』。
──半径五キロ圏内の全商店を対象に、食料品や生活雑貨が最安価で買える店舗や時間帯を示す『節約術・バイ式』。
──クレーム対応やレスバトルに至るまでを含んだあらゆる口論に際し、相手の精神を的確に抉る文言が思い浮かぶ『論破王』。
──コミュニケーション能力が向上する代わりに喋り方がエセ関西弁、英語の場合なら西海岸訛りとなる『ウエスト・ウインド』。
斯様なラインナップの一体どこが有用か、是非ともセミナーを開いて教授願いたい。
なんなら残りのうち情報公開されてた二種も、直接的な戦闘能力は皆無な代物だしな。
「ねえ。結局コイツなんで女なの?」
「七日に一度性別が反転する『チェンジリング』が発動してるタイミングで、よりにもよって『モナ・リザ』を習得しちまったんだ」
選択式スキルペーパーでの獲得が可能な、不老効果を有する中では指折りにポピュラーだろうスキル。
そのチカラは、習得者の身体を六時間周期でループさせるというもの。
要は死ぬほどの大怪我をしようが、猛毒を頭から浴びようが、四半日だけ生き長らえれば元に戻る。鳳慈氏がソロでダンジョンを戦い抜けた理由のひとつだ。
尚、肥満や持病なんかのマイナス要素も延々と輪廻する上、俺の『双血』のように肉体年齢が最盛期で固定されるワケでもないため、良いこと尽くめとは評し難い。
元より若々しく健康な者が持って初めて意味を成す、そういう意味で人を選ぶスキル。
ちなみに卵子は受精した時点で別個体と看做されループの対象外となるらしく、女性が習得しても普通に子供は産めるとか。
〈うせやろ。ウチの大失態、後世にモロバレなん?〉
「安心しろよ。一部のコアなファンしか知らねぇから」
それを聞いて何が安心出来るんや、と睨まれた。
返せる言葉も無い。
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