616






 荒々しく凍てた地表を蹴り付けるように、彼が俺の眼前へと立つ。


〈なんやねんコラ、無駄にデカい図体しくさってからに〉


 肌が死人の色であること以外、俄かに氷像とは信じ難い、あまりにもリアルな生命感。

 これほどまでの存在をハンドメイド出来るとは、フォーマルハウトに対する評価を改めねばなるまい。


〈首いわすやろが。屈め屈め〉


 メディア露出を酷く嫌うタチで、生前の映像記録などは面相を覆い隠したものが大半。

 と言うか、ほぼ全てそう。


 故に、フェリパ・フェレスにも劣らぬだろう、その絶大な知名度とは裏腹、素顔を知る人間は少ない。殆ど居ない。

 この情報化社会に於いて、ある種の異端とすら称せるだろうイレギュラー。


 ──事象革命黎明期の英雄。

 ──人類初の不老効果持ちスキル習得者。

 ──Dランキング初代一位。


 ──世界最強の探索者シーカー


「斬ヶ嶺、鳳慈」

〈おーん? なんやジブン、ウチのファンかいな。先に言うとくけどもサインはNGやで。一人相手にしたら僕も私もってワイワイ群がるからなぁ〉


 芸能人気取りかよ。群がるも何も、ここには俺含めて四人しか居ないんだが。

 そもそも別にサインは要らん。間違い無くファンではあるけれど。


「……は? 斬ヶ嶺鳳慈?」


 と。幽体化したまま、鼓膜を介さず直に脳へ響く声でリゼが呟く。


 素顔同様、あまり知られていないを存ぜぬ身であれば、至極当然と言える疑問を。


?」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る