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〈貴様……誰カト思エバ、イツゾヤノ預言者カ〉
得心したようにフォーマルハウトが立ち上がる。
忌々しげな眼差しを、アミュレットへと向け遣りながら。
〈貴キ者ヘノ礼節モ弁エヌ不埒者メ。妾ガ最初ニ頸ヲ刎ネラレタ日ナド言イ当テオッテ〉
「寸分狂わず、だったでしょう?」
〈腹立タシイホドニナ〉
纏う雪を散らし、緩やかな歩調で此方へ寄る人竜。
歩む度、足跡とその周りを氷筍が覆い、次々に砕けて行く。
「で?」
〈チッ……奏上ガ真デアッタナラ、貴様ノ頼ミヲ一度ダケ聞キ届ケル。アア、覚エテルトモ〉
「結構」
膝に砂埃すら被っていない絶対強者が、どこの馬の骨とも知れぬ輩に命日を宣告されたところで一笑に付した筈。
恐らくは座興に等しい思惑で受けたに過ぎない筈の瑣末な取り交わし。
しかし予知能力者との賭けなど、謂わば神の見えざる手。何かしらの対抗手段を持ち合わせない限り、勝ち目は皆無に等しい。
未来に向けた膳立てを、残さず余さず整えた上での予定調和。
三十三年前とやらの時点で、フェリパ女史には今の俺達の姿が視えていたのだろう。
「これを」
用済みとばかりアミュレットを棄てたフェリパ女史が、別の何かをフォーマルハウトに投げ渡す。
桐の蓋に鳳と凰を描いた小さな箱。
微かな音から察するに、中身は綿と、人間の指骨。たぶん左手の人差し指と薬指。
「『
なんて罰当たりな魔法だ。道徳は無いのか。
「そして。その氷像に遺体の一部を埋め込むことで魂をも疑似的に精製し、身体能力や戦闘技術のみに留まらず記憶と人格に至るまでの完全再現が可能」
〈良ク知ッテル。気色ノ悪イ〉
歴史に名を刻んだ武人達の墓を片っ端から暴いて、誰が最強か競わせようぜ。
あ、でもフォーマルハウトと殺し殺されしたトモダチ限定なのか。残念だ。
〈ツマリ此奴ヲ喚ビ起コセト?〉
「ええ」
短く冷淡な返答。容姿も合わさり、トレース元となったu-aを想起させる仕草。
結構ツンドラ系だったのね聖女パイセン。意外。
「……あ……あの、何か……?」
俺の視線に気付いたフェリパ女史。打って変わって、しおらしい態度。
だいぶ温度差凄い。砂漠かよ。
「月彦」
「あ?」
どったのリゼちー。神妙な顔して。
「包丁とか刺さらないくらい頑丈な身体で良かったわね」
「……あァ?」
そりゃ一体どういう意味だ、オイ。
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