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 湧き水のように透明で、魂にまで染み渡る耽美な旋律。

 これは。


「『聖歌ソング』か」


 習得者の歌唱力に大幅な補正を齎し、その歌声で味方を高め、敵を縛める後援スキル。

 選択式スキルペーパーから獲得し得る異能に於いて最上位の一角に数えられ、取り分け女性探索者シーカーに高い人気を誇る代物。


 知っている。過去のアタックで遭遇した同業者達にも、何人か使い手が居た。

 ……だが。


「知らねぇ曲だな」


 精神高揚、身体能力強化などのバフ効果を持つ『戦いの歌』。

 味方と認めた者の傷病を癒す『天界のエチュード』。

 敵と断じた相手を弱体化させる『地獄のソナタ』。


 俺の『双血』同様、複数の効果を宿す希少スキル。後々になり能力が増えた、と言う点も似てる。

 けれども、それでも、内包するのは今し方に挙げた三曲だけの筈。


「『聖歌ソング』が二度目の変質を起こしたなんて話、出てたか?」

「初耳ね。習得者の多いスキルだし、そんな事件があったなら流石にどこかで聞いてると思うけど」


 活力が充ちる。

 やや褪せ気味だったリゼの顔色も、瞬く間に艶を取り戻して行く。


 取り分け顕著な変貌を見せたのは──フォーマルハウト。

 どういうワケか、奴もこの歌の恩恵を受けていたらしい。


〈コレハ……〉


 弱り果てた人竜を中心に渦巻く、エネルギーの奔流。

 滑らかな背筋を氷細工の翼と尾が飾り立て、雪の鎧が裸身を覆う。


〈ハ……フフ、アハハハハハッ! 戻ッタ、戻ッタゾ、妾ノ力!〉


 分厚い錆が見る見る剥がれ落ち、露わとなる威容。


 ──強い。

 予ての想定通り、或いは想定以上に。


「ぅるる」


 ダンジョンボスの強さ……と言うか出力は、難度毎で大雑把に括られてる。

 その水準を明らかに逸脱した次元。甘く見積もっても、男鹿鬼ヶ島の三猿より上。


 どうにも『魅了チャーム』といい、リポップ後の記憶継承といい、やはりコイツはが違う。


 …………。

 まあ細かい講釈は、後世で暇を持て余した学者連中が勝手に垂れてくれるだろう。


「リゼ。樹鉄刀」

「ん」


 フォーマルハウトの特異性。そんなものに興味は無い。

 重要なことは、アイツの力が俺の命に触れる程度まで跳ね上がった。それだけだ。


「『番式・龍顎』」


 受け取った樹鉄刀を、曲式から双剣へと移し替える。


「ハハッハァ」


 昂る。笑える。


「あの」


 食指が動かない、なんて無礼を宣って悪かった。

 謝罪代わりに斬り合おう。喰らい合おう。殺し合おう。

 そう、どちらかが息絶えるまで。


「あのぉ……もしもーし?」


 とんとん、と肩を叩かれる。

 なんだよオイ。折角盛り上がって来たとこに。


「こんにちわ」


 振り返った先には、楚々とした笑顔。

 完全索敵領域で存在こそ掌握済みだったものの、気にも留めてなかった女が一人。


 先の『聖歌ソング』の、歌い主。


「誰だ、てめぇ」

「ふふっ」


 どこぞの毒舌アンドロイドと似通った、しかし髪色や目付きなどの節々が異なる形貌と背格好。

 見覚えあるような、無いような。


「あ」


 思い出した。

 ヒルダが造って、押し付けられる形で預かって、いつの間にか失くなってた、u-aのコピーアウト。


 そのは、魂の陰陽を別つ赤子のチカラを利することで蒸留された──


「──はじめまして。フェリパ・フェレスです」





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