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延べ十三回。
遡ること半刻ばかりの間で、空間転移を重ねた数。
「はぁ……しんど……」
いい加減、リゼも疲労の色が濃くなり始めた。
次で終わらなければ引き上げよう。そう決めた頃合、妙な場所を指定される。
「あァ?」
難度八ダンジョン、魔界都庁。
その最奥、七十階層。
「大丈夫か?」
既に両手の指でも足りぬ回数、立て続けて道を繋いだ末の行使。
概ね五キロというリソースの範囲内ではあれど、短スパンでの急激な削りは確実に身体を蝕む。
況してや扱う媒体が手足も同然の臨月呪母やマゼランチドリなら兎も角、それらと比べれば数段は練度の劣る樹鉄刀。
針穴穿つ精密操作が必須条件のスキル複合技。消耗の度合いは軽く平時を凌ぐ筈。
「無理するなよ。別に日を改めたって構いやしねぇんだ」
「ふーっ……このくらいなら平気。いけるわ」
息を整え、樹鉄刀へと呪詛を注ぎ始めるリゼ。
ダンジョン攻略中に互いの武器を取り替えて使うことも少なからずあったとは言え、主流から外れた得物で良くやってくれる。
──剣身を基点に、空間が歪む。
「『宙絶イツツキ』」
狂った笑い声に似た風切り音。
呪詛を孕んだ、赤とも黒ともつかない斬撃が十三に裂け、飛び交い、全方位より一点へ収斂。
同時衝突と併せ、薄ら寒い反響。虚空に亀裂。
そのまま割れ砕け、大人五人が横並びで通れるサイズの穴を穿つ。
「随分でかく作れるようになったよな。屈んで漸くだった最初の頃が懐かしいぜ」
「失敗よ。媒体が臨月呪母なら、あと三倍は広げられるんだけど」
何も軍隊を雪崩込ませようってワケじゃないんだ。これで十分過ぎるくらいだろ。
「さて。ボチボチ終点を拝みたいところだが」
ぼやきつつ、空間同士の境目を跨ぐ形で踏み出す。
刹那──血と鉄の臭いが、凍えるような冷気と共に、鼻を刺した。
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